勤務医不足などで、医療崩壊の危機にさらされている地方の現実に、政府・与党も動かざるを得なくなったとみていいだろう。
二〇〇八年度の診療報酬改定は、焦点となっていた医師の技術料などの「本体部分」が、八年ぶりに引き上げられることで決着した。医療機関の収入に直結するとはいえ小幅だけに、即効性はあまり望めそうにない。
「薬価・材料部分」を含めた診療報酬全体ではマイナス0・82%。〇二年度から四回連続で引き下げられた。一方、本体部分は0・38%のプラスとなった。
本体部分の引き上げに伴う国庫負担は約三百億円。保険料分や自己負担分も含めた実質的な医療費は、約二千四百億円増加するとの試算も報じられている。
小泉改革以来、政府は医療費抑制策を推し進めてきた。その結果、地方の病院を中心に勤務医が減少。産科や小児科が休廃止に追い込まれるなど、地域医療に深刻な影響が出ている。
昨年実施された広島県医師会の調査によると、勤務医の約六人に一人が週二回以上当直し、九割以上は当直明けも通常の勤務だった。現場の疲弊が、医師の病院離れに拍車を掛けている実態も見逃せない。
年明けから本格化する中央社会保険医療協議会(中医協)の議論では、診療報酬のプラス改定分を医師不足が目立つ産婦人科や小児科、救急医療に重点配分。病院勤務医の待遇改善も図るという。当然の目配りといえる。
ただ、中山間地域の自治体病院からは「この程度の引き上げでは、医療崩壊に歯止めはかからない」と疑問視する声が上がっている。診療報酬の相次ぐ引き下げが、厳しさを増す一方の医師不足もあって、病院経営を圧迫し続けてきたからだ。
こうした現実を踏まえれば、地域格差をなくす視点は欠かせまい。過疎地域にある病院の診療報酬は手厚くするなど、システム自体を思い切って見直すことも必要だろう。
もちろん、診療報酬というパイの中での数合わせには、おのずと限界がある。〇七年の人口当たり医師数でみると、日本は経済協力開発機構(OECD)に加盟する三十カ国中二十七位。全体の医療費を抑えながら、安心できる体制を築く道があるのか。もはや、国民的な議論が避けて通れないところに来ている。
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