◎地域医療の充実 医師の供給抜きに語れない
金大が能登北部の医師不足対策として石川県に提言した自治体病院の連携策は、中身の
妥当性もさることながら、医学部を持つ大学が地域医療の充実に積極的に関与していく姿勢を示したものと受け止めたい。
氷見市民病院の公設民営化問題が象徴する通り、地域医療体制の充実や自治体病院の再
生は、医師の供給源である大学医学部を抜きにして語れない。地域医療システムの整備は行政の役割のように思われがちだが、医学部はこれまで医局を通して病院に人材を派遣しており、医師不足問題の、まさに当事者である。
診療、教育、研究を柱とする大学医学部が地域の医療支援にどこまで責任を持つかは議
論のあるところだが、医師の過不足が地域の浮沈を握る時代になった以上、医局という小さな組織より医学部全体、もっと言えば大学全体で考えていい大きなテーマである。それが大学の最たる地域貢献とも言えるのではないか。
能登北部の医師不足対策としては、四自治体病院のうち二組のペアを例示し、医師の相
互派遣や救急医療の輪番制の推進とともに、将来的には二病院を診療所に縮小する案も示された。地域に医師が常駐することを優先すれば機能分担や共同化は避けて通れない課題である。
医師の供給側からすれば、幅広い経験を積み、高度な医療技術を習得できる職場が望ま
しく、機能の集約化は一つの考え方である。医師不足対策は住民側だけでなく、労働環境や教育機能といった供給側の視点が重要となる。
提言は石川県が出資して金大大学院医学系研究科に開設された寄付講座「地域医療学講
座」で二年かけてまとめられた。これを機に地域医療学を発展させ、県や自治体、大学による協議機関の設置も検討に値するだろう。
氷見市民病院の公設民営化は指定管理者となる金沢医科大と、富大、金大による三大学
協議会設立準備会から富大が離脱し、足並みが乱れた。大学が地域医療支援に関与する明確なビジョンを描き切れないまま、いきなり難しい応用問題に直面した印象もぬぐえない。今後も予想される地域医療の難題に備え、県を超えた大学連携も真剣に議論する時期にきているのではなかろうか。
◎韓国大統領に李氏 期待したい貿易交渉進展
韓国の次期大統領になる李明博氏は、経済界出身の政治家らしく、日韓の自由貿易協定
(FTA)締結に意欲を持っている。実行力に富む「経済大統領」のイメージを国民に植え付け、7%の高い経済成長を公約に掲げた李氏にとって、対日関係の冷却化は何としても避けたいところである。大統領の交代を機に、暗礁に乗り上げている日韓の経済連携交渉を進展させ、両国が名実ともに未来志向の関係に入るようにしたい。
在日二世として日本で生まれ、終戦後に韓国へ引き揚げた李氏は日本に対して、愛憎半
ばする思いを抱いているような印象である。歴史問題では厳しい認識を示し、「日本の歴代指導者は謝罪はしても、行動が変わらないため韓国国民の胸に届かない」と主張する。小泉純一郎元首相の靖国参拝など日本側が歴史問題を再燃させたという認識では、現在の盧武鉉大統領と変わりはない。
しかし、韓国内の民族主義をあおるような盧大統領の対日強硬姿勢を「ポピュリズム的
」と批判し、歴史問題が日韓関係全体の妨げにならないようにする姿勢をみせている。盧大統領は、日本と領有権を争う竹島問題に関して、「物理的な挑発には断固対処する」と述べ、日本の当然の権利である海洋調査に強硬手段も辞さない姿勢を鮮明にした。強い反日姿勢で歴史問題を日韓首脳の「シャトル外交」断絶にまで拡大させた盧大統領の対応を批判し、「隣国関係を民族主義や国内政治と関連づけるのはよくない」という李氏は、現在のぎくしゃくした日韓関係を転換させる期待を抱かせる。
苦学して名門大学を卒業し、企業のトップに上り詰めた李氏は、現実的、実務的な側面
を持っており、経済を軸に「是々非々」の対日外交を展開するとみられている。「開放は時代の流れ」として、日韓の懸案であるFTA交渉に前向きの姿勢をみせる李氏に、日本側も積極的にこたえなければなるまい。
李氏の対外姿勢で最も注目される対北朝鮮関係では、独自の経済協力を行う考えを表明
しているが、核廃棄の進展なしに一方的な支援は行わないという原則も打ち出している。この原則を曲げることがないよう望みたい。