誰のものか分からない「宙に浮いた」年金記録約五千万件の持ち主を探すため、社会保険庁が注意を喚起する「ねんきん特別便」の発送が始まった。来年三月までに特に可能性が高い一千万人前後に順次届けられる。最終的には来年十月までに公的年金の全受給者、加入者合わせて約一億人の手元に届く。
年金記録不備問題は、そもそも社保庁の長年にわたるずさんな管理が原因だが、解決には国民の協力が鍵を握る。特別便について「はい、そうですか」と素直に受け入れにくい面もあるだろうが、自分の年金は自分で守るという意識を持ち、前向きに対処したい。社保庁は協力呼び掛けなどのPRを徹底しなければならない。
国民の年金に対する不信感は募るばかりだ。共同通信社が先日実施した電話世論調査によると、年金記録問題で政府が全面解決を事実上断念したことについて57・6%が「公約違反に当たる」と回答した。「当たらない」と答えたのは34・3%だった。福田康夫首相が「公約違反というほど大げさなものか」と発言したことなどへの反発の表れと思われる。
福田内閣の支持率は35・3%と十一月上旬の前回調査に比べ11・7ポイントも落ち込んだ。不支持率は47・6%で11・0ポイント上昇し、内閣発足後初めて不支持が支持を上回った。
一連の防衛省疑惑などマイナス要因はいろいろ考えられるが、年金問題をめぐる対応が支持率急落の主因とみられる。特別便で不手際や混乱が生じれば国民の不信感はいっそう強まり、政権運営は厳しさを増そう。
特別便には、本人の年金加入履歴などが記載されている。受け取った人は記録漏れがないかどうか、書類や記憶などを頼りに自らチェックする。「宙に浮いた」記録の可能性があるだけでなく、訂正すべき記録は申し出ないと誤って同姓同名の別人に統合される恐れなどもあり、細心の注意が必要だ。
疑問点があったら専用ダイヤルに電話すればよい。社保庁は問い合わせが集中しないよう、発送時期を来年十月まで分散した。記録問題がクローズアップされた今年六―七月には、相談電話がつながりにくかったり、たらい回しにされるなど苦情が相次いだ。混乱を招かぬよう万全の態勢が求められる。
政府は走りながら特別便の効果を検証し、状況を小まめに開示してもらいたい。不十分な点があれば次の策を早急に打ち出さないと、国民の不安解消と信頼回復は遠のくばかりだろう。
日本を狙う弾道ミサイルに対処する政府のミサイル防衛(MD)計画で、海上自衛隊のイージス艦「こんごう」により海上配備型迎撃ミサイル(SM3)の発射実験がハワイ沖で行われ、模擬弾を大気圏外で撃ち落とすことに成功した。米国以外の国でのSM3の試射は初めてである。
政府は北朝鮮のミサイルを念頭に米国とMDの共同開発を進めてきた。MDはSM3が撃ち漏らしたミサイルを地対空誘導弾パトリオット(PAC3)で迎撃する二段構えで、PAC3は既に国内配備が始まっている。こんごうが年明けにも帰国すればMDが本格稼働する。
PAC3の配備、今回の実験とも予定を前倒しして行われた。防衛省は計画を加速したい考えのようだが、MDにはまだ課題が多い。
第一は精度の問題だろう。米国でも迎撃実験は度々失敗しており、「弾丸を銃で撃ち落とすより難しい」といわれた技術的困難さへの懸念はぬぐい切れていない。
相手ミサイルの探知、追跡には米国の協力が不可欠で実質的に米軍が主導権を握り、憲法九条が禁じる集団的自衛権の行使に踏み出す危険性も指摘される。運用時に日本が拒否権を持つべきとする専門家の意見がある。米国に向かう可能性のあるミサイルを、日本が迎撃するかどうかという問題も大きい。
北朝鮮からのミサイルを想定すれば対応時間は極めて限られる。手続きを経ず現場指揮官の判断で迎撃せざるを得ない事態が考えられ、文民統制上の不安もある。
ミサイルを撃ち込まれない外交努力が大切だ。性急にMDを進めるのでなく、専守防衛の原則を踏まえた慎重な論議が求められる。
(2007年12月19日掲載)