地域の病院の勤務医不足対策として、政府は診療報酬の「本体部分」(医師の技術料など)の引き上げを決めた。給与面など待遇を改善することで、医師確保につなげようという考えである。

 結論から言うと、この程度の引き上げで勤務医の待遇が大きく変わるはずはなく、医師確保の効果も疑問と言わざるを得ない。問題の根治につながる特効薬にはなり得まい。

 舛添要一厚生労働相と額賀福志郎財務相の合意内容は、本体を0.38%引き上げる一方、薬価は1.2%下げ、診療報酬全体で0.82%引き下げるというものだ。本体引き上げは8年ぶり。これに伴う国庫負担は約300億円となる。

 本体部分は、小泉政権下では改定ごとに減額され、日本医師会はそうした抑制策が勤務医の過重労働を招き、医師の病院離れにつながったと主張してきた。

 確かに、地域の病院の医師不足は深刻である。当直からの日勤など長時間勤務が日常化し、そうした実態がまた医師離れを招くという悪循環に陥っている。

 とくに小児科や産科部門で、その傾向が強い。過労死の報告もある。担当医不在で診療科の閉鎖に追い込まれた病院も少なくない。

 地域の勤務医たちに、実態に見合う報酬を払うのは当然のことである。しかし、医師不足の背景には、待遇面以外の問題もあることを知らねばならない。

 1つは研修医制度の変更の余波だ。研修医の意思で研修先を決められるようになり、研修医が大学から都市部の病院に流出した。困った大学病院が地方の勤務医を次々に引き揚げた事実がある。

 産科や小児科の場合には、医療事故のリスクや、不可避な長時間勤務を若手医師が嫌っている面もある。大学の両科医局の希望者は激減しているという。

 こうした面に手を付けず、診療報酬に若干の色を付けても、医師が病院に戻ってくるとは考えにくい。地域で産科や小児科を維持していけるとは思えない。

 問題は本体引き上げの手法にもある。そもそも、概算要求基準で社会保障費は2200億円圧縮が求められ、診療報酬の引き上げはしにくい状況だった。

 そこで、厚労省は赤字の政府管掌健康保険の国庫負担を、大企業社員が加入する組合健保に肩代わりさせることなどで、社会保障費の圧縮と診療報酬の本体引き上げを可能とした。

 厚労省は当初、開業医の初診・再診料引き下げも検討したが、医師会の反対でさたやみになった。医療費の無駄を徹底して削り、配分を見直して本体引き上げにつなげるのならともかく、そうした努力抜きの改定は安易と言うしかない。

 医療費抑制下での地域医療の立て直しは、小手先でできるものではない。地域に勤務医を呼び戻すには、待遇改善とともに、医師の意識改革を含む抜本的な誘導策が検討されねばならない。

=2007/12/19付 西日本新聞朝刊=