9日に起きたオールニッポンヘリコプターの墜落事故の現場付近では、普段とは違う音や動きに不審を抱き、多くの人がヘリを目撃。回転して落ちていくヘリの姿を見て、恐怖と衝撃を受けていた。
現場近くに約30人いたラジコングループの一人、静岡県御殿場市茱萸沢、会社員、前田善一さん(45)は「音が不規則でおかしいと思った。見ていると、頭を下向きにして回転して落ちた。墜落後は前部が沼に浸かって、女性はヘリにもたれかかって救助を待っていた」と事故の様子を証言。
また、同じグループの青島光雄さん(60)は「後部が不安定だったのでおかしいと思ったら、その後ゆっくり回転しながらドスンという音を立てて落ちた。煙は出ていなかった」と話した。
さらに、静岡市葵区川合の主婦(67)は「キーンという金属音が長い間聞こえていて、ヘリのいつものバタバタという音と違ったので、驚いて車で駆けつけたら墜落していた」と話していた。
静岡市清水区押切の会社員、松永圭弘さん(32)は「自宅アパート1階でヘリの音が聞こえたが、いつもと違うキーンという大きな金属音のような音がしておかしいと思った。まさかこんなことになるとは思ってもみなかった」と驚きを隠せない様子だった。【望月和美、田口雅士】
◇「原因分からない」−−会社会見
自社が所有するヘリコプターが墜落したことを受けて、オールニッポンヘリコプター(東京都江東区)の日高誠一郎社長らは9日夕、本社で記者会見を開いた。日高社長は「ご迷惑とご心配をおかけして申し訳ありません」と謝罪。しかし、離陸1時間前の点検では異常はなく、事故原因については「分からない」と説明した。
同社によると、ヘリは、給油先の静岡ヘリポート(HP)経由で大阪・伊丹空港で検査を受けるため午前10時ごろ東京ヘリポートを出発。約40分後、整備士の亀山幸代さん(33)が静岡HPに携帯電話で、「(機体の方向を制御する)ラダーペダルの調子が悪い」と報告。消火設備を用意するよう求めたが、その後、連絡がないまま墜落した。
同社は事故と同型機を6機所有し、これまでにラダーの不具合はなく、離陸前の点検でも不具合は見つからなかったという。ラダーの不具合だけですぐに操縦不能になることはないといい、「原因は不明だが、ラダーの故障で、『旋回きりもみ状態」になったとは考えにくい」と説明した。
同社はヘリを13機所有し、いずれもNHKの取材用ヘリ。機長の小宮義明さん(57)は取材ヘリのパイロットを21年間務めるベテランで、これまでの運航にトラブルはなかったという。【杉本修作】
◇夢中でビデオ撮影−−山田さん
静岡市葵区の山田悦郎さん(67)は、墜落現場から約500メートル離れた野原で、ラジコンヘリの愛好者の集まりをビデオカメラで撮影していた。本物のヘリが近づいてきたので、ラジコンが止まり、撮影もやめた。だがヘリの「キーン」という異常な音を聞いて、再び撮影を始めた。
撮影を始めて数秒後、上空にいたヘリが3〜5秒かけて回転しながら落ち、草むらで見えなくなった後ドーンと音がした。夢中でカメラを回しながら音がした方に走ると、ぬかるんだ泥の中に前部が大破したヘリがあった。駆けつけた消防隊員や居合わせた人々で乗員を救助する場面も記録した。
残念ながら機長の小宮さんは亡くなったが、整備士の亀山さんが助かったことを聞き、救われた思いがした。「ある程度回復されたら、お見舞いに行きたい」と祈るように話していた。【望月和美】
12月11日朝刊