憂楽帳

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憂楽帳:姨捨

 作家の深沢七郎は、姨捨(おばすて)伝説を題材にした「楢山節考(ならやまぶしこう)」の出だしで「山と山が連なっていて、どこまでも山ばかりである」と書いた。伝説の舞台、姨捨山(正式名・冠着(かむりき)山)は長野県千曲市と筑北村の境。老母を山に捨てにいくという「更級日記」などの逸話から、姨捨の名が付いたとされる。だが、地元に伝わる話はもっと俗っぽい。

 「60歳になったら親を山に捨てよ」と領民に命じた殿様に、隣国の領主が「灰で縄を作れ」などと難題を吹っかける。答えなければ攻めるというが、さっぱり分からない。ところが、息子が山に捨てられずに連れ帰った老母が「縄を塩漬けにし、乾かして燃やせばできる」と答えて解決してしまう。もとより「姨捨」にリアリティーはないが、地元の言い伝えは「高齢者切り捨て」伝説を「お年寄りの知恵」物語に見事に置き換えている。

 医療費負担増、年金問題。現代の「切り捨て」はあまりにリアルだ。殿様はその後、お年寄りを大事にしたそうだが、今の国には、その度量も器量もないのだろうか。【鈴木篤志】

毎日新聞 2007年12月19日 東京夕刊

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