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津田大介さんに聞く(前編):

「ダウンロード違法化」のなぜ ユーザーへの影響は (1/3)

違法動画や楽曲は、アップロードだけでなくダウンロードも違法――著作権法のそんな改正に向けた動きが進んでいる。この動きはなぜ生まれたか、法改正されればユーザーにどんな影響があるのか。津田大介さんに聞いた(→後編)。
2007年10月05日 15時36分 更新

 著作者に無許諾でネット上にアップロードされた動画や音楽をダウンロードする行為が、条件付きで違法になる――著作権法のそんな改正に向けた動きが、じわりと進んでいる。

画像 私的録音録画小委員会の会合の様子

 文化庁長官の諮問機関・文化審議会著作権分科会に設けられた「私的録音録画小委員会」が10月12日に提出する中間整理案に、そういった方向の内容が記載される予定だ。整理案提出を前にした最後の会合で議論された整理案の草稿には、以下のような内容が書かれている。

 「著作者に無許諾で動画や音楽をアップロードしたサイトからのダウンロードについて、『情を知って』(違法サイトと知って)いた場合は、著作権法30条で認められている『私的使用』の範囲から外し、違法とすべきという意見が大勢であった」

 現行の著作権法では、著作物を著作者に無許諾でアップロードする行為は「公衆送信権」(送信可能化権)の侵害とされて違法だ。例えば、WinnyなどP2Pファイル交換ソフトや、着うた投稿サイトなどに、権利者に無許諾で動画や音楽ファイルをアップロードした場合は違法行為となる。

 だが、違法ファイルをダウンロードする行為については規定がない。

 著作権法30条は「著作物は、個人的または家庭内などで使う場合は使用者が複製できる」としており(セルビデオをコピーガードキャンセラーでコピーする行為などは例外)、ダウンロード、つまりネット上のファイルを通信回線を経由してPCや携帯電話内に複製することにも30条が適用される。

 30条でいう「著作物」は「著作権の目的となっている著作物」であり、それ以上の規定はない。つまり著作物それ自体の“出自”などは問わないため、公開の形態が違法か合法かを問わず、私的利用であればダウンロードは合法。つまり怪しげなサイトで明らかに無許諾で公開されている映画や着うたをダウンロードしても、個人的に楽しむ分には罪に問われることはない。

 今回の動きは、これまで合法だったダウンロードに関しても、「録音録画」の対象となる音楽や動画ファイルに限っては、条件付きで私的使用の範囲外としよう――というものだ。このままの流れで法改正されれば、Winnyなどで見つけた違法ファイルや、違法着うたをダウンロードする行為が、条件付きながら違法になりそうだ。

 30条には1992年に追加された第2項があり、ここで録音録画補償金について規定している。私的複製の適用除外を議論した私的録音録画小委員会は、30条と密接なつながりがある。

 今になって「ダウンロード違法化」はなぜ議論されたのか、また、法が改正された場合に「違法」とされる基準は何か、ユーザーにはどんな影響があるのか――小委員会に委員として参加しているIT・音楽ジャーナリストの津田大介さんに聞いた。

ダウンロード違法化は「レコード協会の要望」

画像 津田さん

―― 「ダウンロード違法化」の議論は昨年ごろから取りざたされ、「知的財産推進計画2007」に盛り込まれるなどして今年から現実味を帯びてきていました。ネットユーザーからは、根強い反発もあります。

 小委員会の議事録を見てもらえれば分かると思うんですけど、最初に「ダウンロード違法化」の話が出てきたのは2006年6月28日に行われた第3回私的録音録画小委員会なんですよね。

 日本レコード協会の生野委員が提出した資料に「著作権法第30条第1項の改正により、零細かつ権利者の利益を不当に害さない私的複製の範囲を明確に限定することを重要な課題として検討すべきと考える」と、丁寧に下線付きで30条の範囲を狭くすることを主張しています。その後も主に日本レコード協会が、「違法着うたが彼らのビジネスモデルの根幹を脅かす」という理由でこのダウンロード違法化を強く要望してきたというのがぼくの基本的な理解です。

 着うたはCDより利益率が高いこともあり、レコード会社の収益の軸になっていく、という部分がある。ダウンロードが違法になれば「違法着うたのダウンロードをやめてください」と言えるようになりますから。

―― レコード業界の違法着うた対策は、送信可能化権の追及――つまり、アップロードした側を取り締るだけでは足りないのでしょうか。

 レコード協会は、従来から「Respect Our Musicキャンペーン」というのをやっていました。CDを買うと「CD内の楽曲ファイルの無断アップロードは、送信可能化権の侵害となり、違法です」などと啓発するパンフレットが付いてきたりする――というキャンペーンです。

 今回の法改正が実現してユーザーのダウンロード行為が違法になっても、刑事罰はありません。その意味で実効性はほとんどないという指摘もあるのですが、じゃあなんで日本レコード協会がこれを強く要望するのかというと、「ファイル交換ソフトからの違法楽曲ダウンロードや、違法着うたダウンロードも違法行為ですよ」とプロパガンダできる。そのための法的根拠が欲しかった、ということだと思うんですよね。

 なんだかんだ言って日本人は結構まじめですから、そういったパンフレットで「違法なファイルダウンロードするのは違法ですよ、止めてください」と言われれば「そうなんだ、じゃあ危ないからやめよう」と思う人も結構いるんじゃないかとぼくは思ってます。そういう意味では、実効性は少ないかもしれないが、萎縮効果もゼロじゃないだろうと。法改正されれば、そういった萎縮効果によってもたらされる、レコード業界にとっての経済的な「プラス」も短期的にはあるとは思います。

 ただぼくは、これは原則として送信可能化権で対処すべき問題だと思っています。そもそも日本は世界に先駆けて1997年に送信可能化権を作った国でもありますから、本来はそれで対処するのが筋だし、実際に対処も進んでいます。例えば、昨年の終わりから今年にかけて、違法着うたを大量にアップしているサイトに対して日本レコード協会が警告活動を行っているようで、昨年に比べて違法着うたサイトの数は少なくなってきています。また、今年5月には違法着うた配信で初の逮捕者も出ていますが、これも送信可能化権があったからこそ対処できた事例です。

 違法着うたのアップローダーは掲示板のようなシンプルなシステムで運営されており、運営者の特定もそこまで難しくありません。さまざまなファイルのトラフィックが入り乱れ、アップロードした者を特定しにくいファイル交換ソフトと比べれば監視もそこまで大変ではないはずです。きちんと監視して警告し、送信可能化権とプロバイダ制限責任法の枠内で対処すれば、かなりの数をつぶせると思いますし、その方が「ダウンロード違法化」よりも実効性がある。拙速に30条の範囲を変更するのではなく、まずはそっちからの対処を十分にやってからだろう、とぼくは考えてます。

レコ協以外も「ダウンロード違法」に賛成した?

―― 中間報告書案の草稿には「ダウンロードも違法とすべきという意見が大勢であった」と書かれたようです。レコード協会だけの要望ではなかった、ということでしょうか。

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[岡田有花, 宮本真希,ITmedia]

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