現在、日本の国民医療費は約33兆円と国民所得比9.01%(2005年度)となっており、高齢化の進展とともに実額、対GDP比ともに上昇してきている。 OECDでは、医療費の国際比較のため医療費定義を揃える形で各国の対GDP比の推移を発表している。これをもとに高齢化比率との相関で医療費がどう推移してきているかをみると図録の通りである。 これを見ると、日本のカーブはそう高くない水準で左右に長くなっており、日本の高齢化のスピードの速さと対GDP比の比較的良好なパフォーマンスを示しているといえる。最近年の対 GDP比では、比較した8カ国中、高齢化比率が最も低い韓国を除いて最もその値が低い。また、日本はいまや最も高齢化の進んだ国となっているので、なおさら、対GDP比の低さが目立つ形となっている。 この図で注目すべきは、高齢化の進展度合いに合わせて医療費水準がどう上昇しているかを、線の傾きで各国比較した結果である。 線の傾きで特異なのは、極めて高い上昇が目立っている米国である。社会保険の範囲が小さく、民間保険と医療機関相互の競争など市場原理をメインとしている点で世界の中でも特異なシステムをとっている米国では、高度医療の発達や医療機器の進歩では世界一となっているが、医療費については高騰に悩まされ、マネジドケアなど数々の医療システム改革にも関わらず、貧困層への医療供給は制約されて平均寿命も先進国の中で低い状況の反面で、国民の所得の多くが医療費に注ぎ込まれているという特徴があらわれている。 かたや英国では、国が医療を供給するという基本線がとられてきており、1980年代までは1人当たりの医療費水準も他国と比べて低かったが、近年はむしろ医療費の上昇に悩まされている。高齢化は進展していないのに医療費だけは上昇していおり、米国と同様垂直に上昇しているのが目立っているのである。1980年代のサッチャー改革で医療が切り詰められた結果、国民の医療へのアクセスが異常に制約を受け、むしろ、それへの反動で医療の供給量を増加させているためだと考えられる(付記参照)。 米英の2国を除くと日本を含め高齢化と医療費の相関では、レベルの違いはあるが、相関線の傾きにおいては、傾きの程度あるいは毎年の安定的な上昇など、ほとんど同等といえる傾向を示している点が目立っている。ただ、最近は、英米だけでなくフランスやカナダなど垂直シフトが目立ってきており、日本の良好なパフォーマンスがそれだけ目立つ状況となっている。ドイツは日本より医療費水準は大きいが高齢化との関連ではほぼ日本と平行した動きとなっている。 韓国は、高齢化も医療費水準も日本の1970年代の水準にあるが、今後、高齢化の進展が大きく見込まれることから医療費のこれからの動きについて注目される。韓国の医療費対GDP比6.0%(2005年)はもちろん現在の日本より低いが、右上がりの状況がどうなるかは予断を許さない。 (関連図録) OECD各国の医療費対GDP比率は図録1890参照。家計に占める医療・健康費については図録2270参照。人口当たりの医師数・看護師数の国際比較は図録1930参照。医療費が高額となった欧米諸国からアジアの低廉な医療サービスを求めてのアジア・メディカル・ツーリズムは図録8430参照。 (付記) OECD諸国の2002年データについて、OECD事務局は「大半のOECD諸国で保健医療支出が増加、中でも米国は突出」と表現している。また次のようにも指摘している。「保健医療関連支出が伸びているのは、一つには、1990年代半ばのコスト抑制が保健医療制度の疲弊をもたらしたことを理解した英国やカナダ等一部の国の意図的な政策によるものです。保健医療関連支出が伸びているのは主に医療技術の急速な進歩、人口の高齢化、医療への一般的な期待感の高まりによるもので、支出の伸びが特に目立っているのは医薬品の分野です。」 (2004年7月8日データ更新、8月6日付表国民所得比更新、05年6月18日付表国民所得比2000年値訂正、05年6月29日更新、06年12月25日更新、12月28日ドイツ追加、07年8月15日・9月2日更新) |
|