「お前覚えてろよ」。善光寺元職員による3000万円の着服を記事にした後のこと。善光寺大勧進の住職からこんな言葉を投げかけられた。税などの優遇を受ける宗教法人が不祥事を隠ぺいしようとした責任を棚に上げ、このような感情的な発言をするとは想像していなかった。
本堂建立300年の記念すべき年だった今年、善光寺では自浄能力を問われるような醜聞が相次いだ。横領事件の取材で出会ったある年配の住職は、約20年前にも土地の移転をめぐり文書を偽造したとして住職が逮捕されたことを証言した。住職は不起訴になったとはいえ、そのときも外部には一切の説明をせず、当事者間で事がうやむやになったという。「事が起きるとお寺の中だけで処理して、隠し続ける。『のど元過ぎれば』で、時間がたてば忘れるだろうという安易な考えが住職の間に広がっている」と、年配の住職は話した。
2年前に報道された善光寺大勧進の小松玄澄貫主の解任騒動も再燃しそうだ。経緯は前回とまったく同じ。同寺の関係者と見られる人物が雑誌に貫主の「女性問題」を漏らし、それを盾に一部の住職が内部で解任要求支持の多数派工作をする。善光寺を慕う檀家や参拝客の思いは、今回も蚊帳の外だ。
もし、一般企業で多額の着服やスキャンダルがらみの内部抗争が起きたらどうなるか。株主や消費者は黙っておらず、組織は社会的責任を問われ、経営陣は一掃されるだろう。「お金とか内紛とか俗っぽい話が続いて、とても御利益なんて望めない」。この参拝客の言葉が善光寺関係者の耳に届く日は来るのだろうか。【川口健史】
毎日新聞 2007年12月18日