NVIDIAは12月13日(現地時間)、同社のマルチGPU技術「SLI」を拡張した「3-way SLI」技術を発表した。これは3枚のビデオカードを用いて描画を行なうという同社にとって初めてのチャレンジとなる技術だ。このパフォーマンスを見てみたい。 ●3-way SLIに必要な条件を確認 3-way SLIは、その名の通り描画を3つに分けて行なう技術だ。通常のSLIは2枚のビデオカード、つまり2基のGPUを用いて、グラフィック処理を2つに分ける技術だった。また、過去に登場したQuad SLIは2枚のビデオカードと4基のGPUの4つに分けていた。今回、奇数個となる3個のGPUを用いるのも初めてならば、ビデオカードを3枚利用するのも初めてということになる。 SLIには2つのレンダリングモードが用意されていた。1つは1枚のフレームを分割し、2基のGPUで描画するSplit Frame Rendering(SFR)。もう1つは、2基のGPUで交互に別のフレームを描画するAlternate Frame Rendering(AFR)である。3-way SLIでは、このうちAFRのみがサポートされる(画面1、2)。Quad SLIでは1フレームを4分割して描画するSFRもサポートされていたが、3-wayではSFRはサポートされていない。
この3-way SLIを構築するにあたり必要なものは、次の通りだ。 1. 対応マザーボード(nForce 680i/780i SLI) まず、対応マザーボードである。SLIは2本のPCI Express x16スロットを持つことができる同社製チップセットを搭載したマザーボードでサポートされた。3-way SLIは、さらに条件が厳しくなり、3本のPCI Express x16スロットが必要となる。現状では、昨年発表されたnForce 680i SLI、先日発表されたnForce 780i SLIを搭載したマザーボードに限定されている。 ビデオカードであるが、3-way SLIは現在、GeForce 8800 GTXまたはGeForce 8800 Ultraでのみサポートされている。この理由は、SLI用ブリッジの仕様に関係している。3-way SLIでは、3枚のビデオカードを相互に結ぶブリッジを利用することになる(写真1、画面3)。このブリッジはビデオカード側に2基のコネクタを持つことを求める。そのため、ビデオカードが上記に限定されるのである。 また、この2つのビデオカードは、PCI Express用外部電源コネクタを2基持っている。よって、3枚のビデオカードで計6個のコネクタを電源ユニットから接続しなければならない。また電源の総出力も1,100W以上の製品が推奨されている。NVIDIAが具体的に提示している推奨電源は下記の通りだ。 2theMax「SP-1,200」 今回のテストにあたっては、上記の電源ではなく、CoolerMasterの「Real Power Pro 1000W」を利用している。この製品には6ピンコネクタは4基しな備えていないため、残り2基は4ピンペリフェラル用電源からの変換アダプタを介して利用した。推奨される使い方ではないが、下記のテスト構成では問題なく動作したことを特記しておきたい。 最後に対応ドライバであるが、3-way SLIの発表後にNVIDIAの公式サイトにアップロードされた「ForceWare 169.25」が3-way SLIをサポートしている。ハードウェア構成を整えた上で利用すると、NVIDIA Control Panelから3-Way SLIを有効にできる(画面4)。
●GeForce 8800 GTXとnForce 780i SLIの組み合わせでベンチマークを実施 それでは、テストを行なっていきたい。環境は表に示した通りで、nForce 780i SLIを搭載するASUSTeKの「P5N-T Deluxe」(写真2)と、GeForce 8800 GTX搭載ビデオカードの組み合わせでテストを行なっていく。なお、nForce 680i SLI環境における3-way SLIの結果は後日検証する予定だ。
【表】テスト環境
ちなみに、いくつか特記すべきことがあるので、ここで紹介しておきたい。まず、ビデオカードであるが、3枚のGeForce 8800 GTXのうち、2枚はNVIDIAリファレンスボード、1枚はASUSTeKの「EN8800GTX/HTDP/768M」を利用している(写真3)。ビデオBIOSのバージョンが異なるなど、微妙な違いがある組み合わせではあるが、この状態でも正しく動作した。すでにSLIを構築していて、1枚追加購入しようとする場合も、メーカーにはそれほどこだわる必要はないようだ。 また、今回のテストでは、普段実施している1,920×1,200ドットを超える、2,560×1,600ドットでのテストを追加している。このテストの実施にあたり、ナナオの29.8型液晶「FlexScan SX3031W-H」を使用している(写真4)。 このほか、テスト対象ベンチマークであるが、まずCall of Duty 2は後継ソフトのCall of Duty 4が正式に発売されたためテストから省いた。ただし、Call of Duty 4を筆者が未入手であるためテストはできていない。 また、LOST PLANET EXTREME CONDITIONが、2-way/3-way時ともに正常にベンチマークが完了しないトラブルに見舞われた。2-way時は起動すらしない状態であったため、これもテストを割愛している。 なお、今回紹介するグラフは、測定した値をそのまま示したものに加え、シングルビデオカード時を100としたときの相対性能を示すグラフの2枚を併記している。2-way/3-way SLIによって、どの程度の性能向上が見込めるかの参考にしてほしい。
では、「3DMark06」(グラフ1〜3)、「3DMark05」(グラフ4)の結果から紹介していきたい。特にHDR/SM3.0テストの効果が大きく、もっとも描画負荷が大きいところでシングルビデオカードに対して2.7倍程度までスコアを伸ばしている。2-wayではもっとも大きな差で約1.92倍というのがあるが、オーバーヘッドを考えると、このぐらいが最大効果と見ていいのではないだろうか。 逆に低解像度では描画負荷に余裕ができてもCPUなどのパーツがボトルネックになるケースが増えるため効果は大きくない。それでも、低解像度から高解像度まで安定して効果が得られているのが印象的な結果といえる。
「F.E.A.R.」(グラフ5)も、平均フレームレートで100FPSオーバーが珍しくないほど描画負荷は軽い部類のアプリケーションになるが、低解像度から安定してSLIの効果が得られている。 それでも、1,920×1,200ドット以下のフィルタ適用なしの条件では、3-way SLIの結果が2-way SLIの結果と同等レベルに留まっている。最大ではシングルに対して約2.7倍の結果も見せる3-way SLIであるが、やはり高い描画負荷でこそ能力を発揮できるという傾向を垣間見せている。 「Cysis」(グラフ6)は、3-way SLIの効果がほとんど見られなかったアプリケーションだ。そもそもこのタイトルは、現状ではマルチGPUに対応していないとされている。シングルビデオカードから2-way SLIへの性能向上は約1.5倍と、それほど悪い結果とはいえないが、3-way SLIでも2-way SLI以上の結果を見せてくれない。 さらに気になったのは、2,560×1,600ドットになるとSLIを構築することで逆に性能低下を見せる点だ。この原因は分からないが、SLIのこれまでの傾向からは考えられない結果であり、やはり、このアプリケーションはこれからの最適化待ちということになるだろう。
「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ7)は、はっきり3-way SLIの効果が表れたテストだ。低解像度では2-wayと3-wayの差が小さいものの、1,600×1,200ドット/フィルタあり、1,920×1,200ドット/フィルタなし、のあたりを境に、シングルビデオカードから2倍以上のスコア向上となり、3-way SLIのメリットがはっきり出てくる。 ただ、絶対的なスコアが優れるため気が付きにくいが、2,560×1,600ドット/フィルタありで若干スコアの伸び悩みを感じる傾向が出ている。このあたりはチューニングの余地がありそうである。
「World in Conflict」(グラフ8)は、SLIの特性がよく表れた結果といえる。CPU処理が多いため低解像度では、描画性能の向上が結果へ結びつかない一方、解像度が高くなったりフィルタを適用することで描画負荷が高まると、SLIによる描画性能の向上が結果に結びついてくる。 2,560×1,600ドットのフィルタ適用ありの条件でも、2-wayで約1.33倍、3-wayで約1.44倍程度という結果は、3-way SLIを導入する動機にはなりにくいと言えるが、高解像度で平均30fpsを目指せるという魅力はあるかも知れない。
「Call of Juarez DirectX 10 Benchmark」(グラフ9)は、2,560×1,600ドットを選択できないので、1,920×1,200ドットまでのテストとなっている。このアプリケーションは低解像度から高解像度まで非常に高いレベルで安定した効果を見せた。3-wayは2-wayに対しても倍程度のフレームレートを出しており、3-way SLIに対するメリットを強く感じさせる結果といえる。
「Unreal Tournament 3」(グラフ10)は、特にフィルタ適用をすることで3-way SLIの効果が目立ち始める。Bot(ゲーム中のキャラクタ)が存在しないFlyThroughでは、1,600×1,200ドットのフィルタ適用あり程度から効果が出始め、2,560×1,600ドットのフィルタありでは実に2.7倍程度のスコアを見せる。同じ条件の2-way SLI時が1.9倍なので、この効果は非常に大きいといえる。 CPU処理が増えるBotにおいては効果が薄くなるものの、高解像度のフィルタあり条件では良い結果を見せている。2,560×1,600ドットという解像度は利用可能なユーザーも少ないだろうが、1,920×1,200ドットの解像度においても、アンチエイリアスや異方性フィルタなどでクオリティ向上を図ることができるのは大きなメリットといえる。
最後に消費電力である(グラフ11)。3枚のGeForce 8800 GTXが同時に動くだけあって、さすがに消費電力も大きい。シングル時の倍程度の消費電力となってしまっている。推移を見ると、アイドル時にはビデオカードが1枚増えるごとに75〜80W程度、ピーク時には1枚増えるごとに155W前後ずつ増加している。 ちなみに、今回、1,000Wの電源を利用していることは先述した通りだが、この変換効率が、悪いところでも75%程度得られるとすれば、750W程度までは利用可能ということになる。今回のピークが620W程度なので、1,000W電源でも何とかなるレベルとは言えそうである。 とはいえ、ビデオカードは12Vラインにかかる負荷が集中的に大きくなるわけで、1,000W以下の電源では、その要求に耐えられれない可能性も出てくる。万全を期するならば、推奨電源を使う方が無難だろう。
●高解像度でゲームを楽しみたいユーザーには必須のパーツ 以上の通り結果を見てくると、高解像度でこそ効果が大きいという傾向はある程度予想できたが、低い解像度でも予想以上に2-way SLIとの差が出ており、それほど限られたユーザーだけのものではない、という印象を受けた。 DirectX 10アプリケーションが出始めた時期でもあり、ビデオカード側にさらに高いレベルの描画能力を求めるニーズは高まっていると思う。今回の結果を見ると、1,920×1,200ドットでフィルタを適用しても、実用レベルのパフォーマンスを維持できるという点にメリットを感じることができると思う。 もちろん、3-way SLIを導入するために必要なパーツに対する投資はかなりの額になる。低い解像度しか利用しないなら、その投資に見合うリターンは得られないだろう。しかし、現在普及し始めている24型ワイドクラスの液晶を持っていれば、十分にその効果は感じられ、投資する価値もあるのではないだろうか。 □関連記事 (2007年12月19日) [Text by 多和田新也]
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