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妻亡くした哀しみ切々と 城山三郎さんの遺稿出版 (1/2ページ)
今年3月に79歳で亡くなった作家、城山三郎さんが、妻の容子さんを失った哀(かな)しみをつづった文章を残していた。経済小説の大家としては見せることのなかった初々しい素顔をさらしたその文章は「そうか、もう君はいないのか」と題されて、21日発売される「小説新潮」に掲載される。
容子さんが肝臓がんで亡くなったのは平成12年2月24日のこと。城山さんが落ち着いたころを見計らって、出版社数社が「容子さんの思い出を書いてほしい」と依頼、最終的に「小説新潮」に決まった。
「テーマが奥様ですから、小説のようには進みませんでした」と担当編集者の楠瀬啓之さん。
結局、完成を見ずに城山さんは亡くなるが、自宅には断章が十数編残されていた。今回掲載されるのは、断章の重複部分を除いて構成したもの。
文芸講演会で話をする城山さんを客席から見ていた容子さんが、目があった瞬間に漫画のキャラクター、イヤミの「シェー」のポーズをしたエピソードが冒頭に置かれ、次いで時間を一気にさかのぼって2人の出会いが描かれる。
時は昭和26年早春。場所は城山さんの実家の近くにある名古屋公衆図書館の前。休館日でもないのに扉を閉ざした図書館の前でたたずんでいると容子さんが現れる。城山さんはこう描く。《オレンジ色がかった明るい赤のワンピースの娘がやって来た。くすんだ図書館の建物には不似合いな華やかさで、間違って、天から妖精(ようせい)が落ちて来た感じ》
何と初々しい表現…。新婚旅行初夜のエピソードには思わずにんまりさせられる。こうだ。《はじめて体を合わせたものの、敷布団に初の交わりの跡を残してしまい、その後京都へは幾度も一緒に行ったが、そこは二度と泊れぬ宿になった》