東京都八王子市の女性社会福祉士(46)が、成年後見業務を担当していた女性の死後、347万円の遺産を受け取っていたことが分かった。日本社会福祉士会は「報酬以外の受け取りを禁じた倫理綱領を逸脱する行為だ」として、同会では初の戒告処分にする方針。社会福祉士は「贈与は本人の意思だ」と話している。
女性は今年4月、86歳で亡くなった。生前は1人暮らしで、在宅介護を受けていた00年ごろ社会福祉士と知り合った。社会福祉士は05年、成年後見業務を請け負うNPO法人に採用され、八王子支局長になった。女性はこのNPOと介護や財産管理の契約を結び、社会福祉士が担当になった。
遺言は社会福祉士の勧めで、06年9月に作られた。預貯金の2割とそれ以外の全財産を社会福祉士に贈る内容で、遺産を分配する「執行人」にも社会福祉士が指定された。同時に、社会福祉士の夫を後見人とする任意後見契約も結んだ。社会福祉士は女性の死後、預貯金を5等分し、自身と女性の親族らに分配した。
しかし、親族が遺言作成の経緯などに不信感を持ち、日本社会福祉士会に苦情を申し立てたため、倫理委員会で調べていた。同会は今後、相続権を放棄して遺産を返還するよう求める。同会は「最も重い除名処分も検討したが、会員として本人を監督すべきだと判断した」としている。
一方、社会福祉士が勤務していたNPO法人は女性の死後に、遺言や後見契約の内容を把握。遺産の受け取り放棄を勧告したが拒否されたため、今年5月に解雇した。
親族は「こういう形で遺産を受け取るのは立場の悪用だ」と話す。
これに対し、社会福祉士は「本人の意思を尊重した。間違ったことをしたとは思わないが、結果的に問題になったことは反省している」と言う。
日本社会福祉士会の金川(かねかわ)洋専務理事は「遺産をもらうべきではなかった。今後このような事態を引き起こさないよう指導していきたい」。NPO法人の理事は「監督責任は免れず、再発防止に努めたい」と話した。【大迫麻記子】
◇絶対に許されぬ
後見制度に詳しい新井誠・筑波大法科大学院教授の話 遺贈の受け取りは、職業倫理上、絶対にやってはいけないことだ。基本中の基本で、NPO法人と日本社会福祉士会の監督責任も重い。
【ことば】◇成年後見◇ 高齢や認知症などで判断能力が衰えた人の財産管理などを助けたり、代行する制度で00年に導入された。これまで元行政書士や司法書士らが制度を悪用して高額の報酬を取ったり、財産をだまし取る行為が発覚。司法書士で作る「成年後見センター・リーガルサポート」は適正な報酬以外、一切の財産受け取りを禁じている。
毎日新聞 2007年12月19日 2時30分