来年度の診療報酬改定で、医師の技術料など「本体部分」の引き上げ幅は0・38%と決まった。本体のプラス改定は8年ぶりだ。薬価部分は1・2%引き下げられるため、全体では差し引き0・82%のマイナスとなる。
医療費は、患者の自己負担のほか、保険料と国庫負担でまかなわれる。医療行為ごとに健康保険から医療機関に支払われる診療報酬が引き上げられると、当然国民に負担がのしかかる。今回の本体引き上げには計算上304億円が必要となる。
引き上げ幅が小さいといえども医師の収入増の財源をサラリーマンが負担することに変わりない。引き上げが医療現場の疲弊を食い止めたいという政治的メッセージならば、限られた中でもメリハリをつけた配分により医師不足の解消につながるような政策誘導を行わなければならない。
来年度予算編成で社会保障予算は2200億円の圧縮が求められている。厚生労働省は、この圧縮分の財源を歳出削減でひねり出さなければならなかった。
主な捻出(ねんしゅつ)策は(1)中小企業の社員が加入する政府管掌健康保険の国庫負担を大企業の健康保険組合に肩代わりさせる(2)薬価引き下げによる歳出削減(3)後発医薬品の使用促進--などだ。
だが、数字のつじつま合わせのため民間からカネを召し上げるやり方は承服しがたい。診療報酬の微増はそのバーターで実現するようなものだ。社会保障費が財政再建のしもべとして扱われるのは、もう限界に来ているのではないか。
今回の改定では、財務省が歳出削減を求め、日本医師会は大幅引き上げを要求した。行司役の与党は、医師・看護師不足や地域医療崩壊の危機感が次期衆院選に悪影響を及ぼしかねないと、微増改定を政治判断したという構図だ。
ただ、厚労省幹部が「1%未満では効果は薄い」と言うほど増額幅はわずかだ。政策誘導には限界があろう。とはいえ、総枠が決まった医療費の下で、今後中央社会保険医療協議会が個別の医療行為ごとに点数(1点10円)を決める診療報酬体系は、増やす分野と減らす分野のコントラストをくっきりさせなければ意味がない。
具体的には、開業医より勤務医に手厚く傾斜配分することだ。交代勤務員もおらず、過酷勤務の続く勤務医が病院を辞めていくため、地域の中核病院でさえ閉鎖される診療科がある。
産科や小児科の医師不足もはなはだしい。収入面に刺激を与えて、何とか食い止める算段を考えねばならない。
制度上、診療報酬を受け取るのは医療機関であり、一人一人の勤務医ではない。カネをどう配分するかは経営者の裁量だが、引き上げの恩恵を勤務医がこうむるようパイプの流れを詰まらせてはいけない。
毎日新聞 2007年12月19日 東京朝刊