◇両候補、訪日成果が影響
台湾の総統選(来年3月22日)を前に最大野党・国民党の候補、馬英九・前主席(57)が11月下旬に訪日した。馬氏は3日間、日本の与野党幹部との会談や講演を精力的にこなし、対日関係重視の姿勢をアピールした。12月16日には与党・民進党の候補、謝長廷・元行政院長(61)も訪日予定で、日本が選挙活動の重要な舞台となっている。訪日の成果が投票行動にも影響を与えるためだ。
台湾の安全保障の後ろ盾である米国との関係は、袋小路の状態だ。陳水扁総統が推し進める台湾名での国連加盟を問う住民投票に、中台関係の不安定化を懸念する米国が強く反対し、与党の「ポスト陳」候補の謝氏にはマイナスとなっている。
馬氏にも弱みがある。米ブッシュ政権は01年、台湾に対するディーゼル潜水艦などの武器売却を決定。だが、購入のための特別予算案は、台湾立法院(国会)で、多数を握る国民党など野党が反対したため成立が遅れ、大幅に減額された。米国の台湾への不信感が生まれるきっかけとなった。
馬氏は候補になる前の昨年3月、謝氏は今年7月に訪米したが、ともに評価は限定的だった。
これに対し米国と並んで重要な国と位置づける日本との関係は、台湾の外交関係者が「72年の日台断交後、最良の状況」と口をそろえるほど良好だ。台湾からの観光客に対するノービザ措置(05年9月)に続き、今年9月には運転免許の相互承認も実施された。
日本からの来台者は10月末で約96万人と過去最高だった昨年(116万人)を上回るペースだ。台湾のビジネス誌が昨年実施した世論調査では、4項目のうち、「移住したい国」「尊敬する国」「旅行したい国」の3項目で日本が1位となり、高い好感度が示された。
海外拠点が少ない台湾のテレビでは、提携する日本の放送局の映像が使用されることが多く、日本の話題も頻繁に紹介される。台湾の政治大学新聞学科の王泰俐・副教授は「国際ニュースと日本ニュースは同義語となっている」と語るほどだ。外交空間が限られている台湾にとって、海外からの評価は重要な位置を占め、総統選のメディア対策上も日本での評価は一層、重みを増す。
歴史、領土問題での馬氏の対日姿勢はこれまで非常に厳しく、慰安婦問題を国連に訴える他党の立法委員(国会議員)のため、個人的に3000米ドルを寄付するなど際立っていた。だが、総統選への影響を考慮すると「反日」の烙印(らくいん)を押されることは避けなければならず、訪日中は「知日派を目指す」と強調した。
京都大への留学経験もある謝氏は、流ちょうな日本語を操り、台湾政界でも屈指の「知日派」として知られてきた。選挙戦の重要な時期に謝氏陣営が得意の「日本カード」を切ることを、馬氏側が強く意識していたことは容易に想像できる。
訪日を終えた馬氏は「(総統就任式が行われる)来年5月以降、総統府で皆さんを迎えたい」という言葉で締めくくった。一方、謝氏の訪日を前に蕭美琴・民進党国際事務部長は「公私ともに日本とつながりが深い謝氏は、馬氏のようにあえて『知日』を口にする必要はない」と自信を示す。
毎日新聞 2007年12月1日 東京朝刊