欧州連合(EU)に加盟する二十七カ国の首脳は、未発効に終わった「欧州憲法」に代わる新基本条約「リスボン条約」に調印した。各国は二〇〇九年の発効を目指し批准に入る。EUは域内の経済統合に加えて、政治統合を深める強力な連合へと踏み出した。
東欧など加盟国の拡大を重ね意思決定などが難しくなったEUは、機構運営の効率化と将来の連邦化を視野に欧州憲法の制定を目指した。しかし、〇五年にフランスとオランダの国民投票で批准が否決され暗礁に乗り上げた。このため、首脳会議は今年六月に欧州憲法を簡素化した新条約の策定で合意し、十月に条約案を採択していた。
新条約は各国が受け入れやすいよう、連邦化の色彩を抑制するなど配慮を示した。取りまとめの中心を担った今年前半の議長国ドイツのメルケル首相も「多くの妥協を強いられた」というように「憲法」の名称を外し、EUの旗や歌といった連邦を想像させる条文も削除した。
一方で、機能強化の基本線は残した。首脳会議の常任議長を務め、対外的な顔となる「EU大統領」を創設し、EU外交を担う「外交安保上級代表」を置く。理事会の表決では各国に配分した「持ち票」を通じた現行の多数決方式を廃止し、「加盟国数の55%以上」と「EU総人口の65%以上」を条件とする二重多数決方式を導入する。欧州委員数や欧州議会議席数の削減なども盛り込んでいる。
リスボン条約が発効すれば、迅速な政策決定へ前進し、国際社会での発言力は強化されよう。欧州憲法の未発効で曲がり角に立たされていたEUの「拡大と深化」が、粘り強い協議で再び動き始めた。戦争を繰り返してきた国同士が過去の経緯や民族、文化などの違いを乗り越えて欧州の平和と繁栄へ一大共同体を築く意義は大きい。
多様な国の集まりの結束は困難も伴う。これまでも、しばしば危機に直面してきた。しかし、欧州憲法の挫折から二年余りを経て調印にこぎつけたことは、長い取り組みの中で培われてきた加盟各国の「何としてもEUを一体化していきたい」との強い意欲を感じさせる。
当面する最大の課題は批准の行方だ。欧州憲法の失敗を教訓に、国民投票によらず議会で決める加盟国が大半を占める。しかし、全加盟国の批准が条約発効の要件だけに、憲法で国民投票が義務付けられているアイルランドなどの動向が鍵を握る。
EUの壮大な実験が、どう動くか。東アジア共同体構想を描く日本は目が離せない。
米大リーグの薬物使用実態を調査した「ミッチェル・リポート」が発表された。現役最多三百五十四勝のロジャー・クレメンス投手、通算最多七百六十二本塁打のバリー・ボンズ外野手ら大物選手を含む約九十人の名前が並ぶ。
薬物汚染の広がりにただ驚くばかりだ。豪快なホームラン、快速球が薬物の力によるものなら魅力は台無しだ。米大リーグはフェアプレー精神に戻り出直してほしい。
米大リーグは二〇〇三年まで薬物検査をせず、罰則も〇四年からで対策遅れは否めない。薬物の副作用は最悪の場合、死に至る。プロへ夢を託す少年への影響も大きいことから昨年三月、米大リーグはジョージ・ミッチェル元上院議員を責任者として調査を開始した。当初、面接に応じたのはヤンキースの内野手だけで調査は難航したが、薬物を売りさばいていた元メッツ球団職員からの証言で次々に名前が特定されたことなどで計八十六人を挙げた。
名指しされた選手はいずれも罰則規定が選手会との労使協定に組み込まれる前の行為のため、罰則はなさそうだという。しかし、十月に薬物使用に関する偽証を認めた陸上女子短距離のジョーンズ元選手は五輪メダルはく奪、記録も抹消された。大リーグ選手への視線が厳しくなっていることを忘れてはなるまい。
日本球界にも波紋が及んでいる。前西武のアレックス・カブレラ選手、阪神のジェフ・ウィリアムス投手らの名前が公表された。日本プロ野球組織(NPB)は「監視は行き届いている」と薬物使用の可能性を全面否定したがファンは納得するかどうか。日本独自の調査が必要だ。また選手への教育徹底、検査体制の強化が欠かせない。
(2007年12月18日掲載)