【ワシントン=有元隆志】海上自衛隊のイージス艦「こんごう」に搭載された海上配備型迎撃ミサイル(SM3)の発射実験が17日午後(日本時間18日午前)、米ハワイ・カウアイ島沖で行われ、模擬ミサイルの迎撃に成功した。米国防総省ミサイル防衛局と防衛省が同日、発表した。これまで標的ミサイルの追跡はあるが、撃ち落としたのは初めて。米国以外による初の実験成功となった。日米のミサイル防衛協力に弾みがつくとともに、日本国内の法整備などが急務となりそうだ。
実験ではカウアイ島にある米軍施設から中距離弾道ミサイルの模擬弾1発が発射された。海上で待機していた「こんごう」の高性能レーダーがこれを探知し、SM3を1発発射。高度100キロ以上の大気圏外で模擬弾を撃ち落とすことに成功した。
米イージス艦レイク・エリーも標的を探知、司令部に情報を伝達するなど、訓練に参加した。
防衛省とミサイル防衛局は、「(ミサイル防衛での)日米協力が強まるなかでの画期的な出来事だ」と実験成功の意義を強調した。
日本のミサイル防衛は、海上でイージス艦がSM3を発射し、弾道ミサイルを迎撃。迎撃に失敗した場合は、地上に配備されている地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が迎撃する2段構えとなっている。
昨年7月に北朝鮮が弾道ミサイル実験を行ったことを受けて、日本政府はSM3とPAC3の配備前倒しを決めた。海上自衛隊は2010年度末までに、「こんごう」のほかイージス艦3隻にSM3を搭載する計画を進めている。
今後、米国に向けて発射された長距離弾道ミサイルを日本のイージス艦が迎撃することは可能かなど、政策論、法律論での議論を進めることが必要となる。
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■日米の情報共有課題
海上自衛隊のイージス護衛艦「こんごう」が日本のミサイル防衛(MD)システムの基幹をなす海上配備型迎撃ミサイル(SM3)の初の迎撃実験を成功させたことで、北朝鮮や中国の弾道ミサイルの脅威に対する備えが一歩前進した。ハイテクの粋を集めた迎撃態勢は着々と整うが、一方で機密保全態勢の確立など、使う「人」の能力向上が課題となる。
「こんごう」は来年1月初旬に日本に帰国し、実戦配備される。防衛省は当初、来年3月までの配備を予定していたが、昨年7月の北朝鮮による弾道ミサイル発射や同年10月の核実験を受け、配備を早めた。平成21年度末には2隻目のSM3搭載艦「ちょうかい」が配備され、日本全土をカバーする態勢が整う。
石破茂防衛相は18日午前の記者会見で「極めて意義深い。今回成功したから100%大丈夫だということには必ずしもならないが、わが国が考える多層的な迎撃システムの信頼性が大きく前進した」と強調した。
MDシステムは、発射された弾道ミサイルを大気圏外でとらえるSM3と、撃ち漏らしたミサイルを地上から迎撃する地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の2段構え。PAC3はすでに航空自衛隊入間基地(埼玉県)に配備され、行政機能が集中する首都圏の備えは着々と進む。
ただ、弾道ミサイル発射を探知する上で米国の偵察衛星や早期警戒衛星の「目」に大きく頼る現状では、日米両国の情報共有が極めて重要だ。イージス艦中枢情報流出事件で露呈した日本側の機密保全態勢のずさんさをどう改善するかが、MDシステムの実効性を高める上での課題になる。
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【用語解説】SM3
弾道ミサイルを大気圏外で撃墜するイージス艦発射の迎撃ミサイル。米国が独自開発した直径約34センチの従来型と、日米が1999年度から共同で開発を進めている直径約53センチの次世代型がある。北朝鮮の弾道ミサイル「ノドン」などへの対処を急ぐ日本は、2010年度までにイージス護衛艦「こんごう」を含む計4隻に従来型SM3を搭載する方針。従来型よりも命中精度や射程を向上させた次世代型については、06年度から日米の共同研究から開発段階に移行した。
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