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【特報 追う】山形の高2自殺 いじめ認識平行線の1年
山形県高畠町の県立高畠高校で昨年11月、同校2年の渋谷美穂さん=当時(16)=が校舎から飛び降り自殺した問題は、1年たった今も、遺族を深い苦悩の中に追いつめている。「学校でいじめがあったのではないか」と訴える遺族は、遺書の一部を公開。だが県教委は「いじめは確認できない」との姿勢を崩さず、両者は平行線のままだ。(松本健吾)
父親の登喜男さん(55)は「1年たっても、いまだに娘の死を受け入れられない」と語る。美穂さんの部屋や使っていた食器などは生前のまま残してある。
登喜男さんは、一周忌を機に、美穂さんが携帯電話に残した遺書の一部、3分の1程度を公表した。この1年、県教委、学校と平行線をたどった末の決断だった。「なぜ娘が自ら命を絶ったのか。(いままで公になった内容は)県教委と学校の見解でしかない。遺族が声を上げていかなくては」と語る。
遺書には「皆が言った暴言、痛かった」「(自殺して)これで満足?」などと書かれ、クラスでのいじめに悩む美穂さんの姿が読み取れた。遺族は、美穂さんの死の直後から「自殺はいじめが原因」と訴えていた。
だが県教委は2月、教員や生徒らからの聞き取り調査の結果として「いじめの事実は確認できなかった」と結論づけた。
登喜男さんは、県教委の調査結果に不信感を表明。「納得できるように、学校で誰がどう言ったのか、実名の入った調査資料を見せてほしい」と求めているが、生徒のプライバシーなどを理由に県教委は応じていない。
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闘いを続ける登喜男さんを支えるのは、学校での事故や事件で子供を亡くした遺族らでつくる「全国学校事故・事件を語る会」(兵庫県たつの市)だ。同会の内海千春代表世話人も平成6年、小学6年生だった長男を自殺で失った。
内海さんは「遺族が知りたいのは、学校で子供がどういう生活をしていたのかという具体的な事実。学校側の見解ではない。山形県教委の説明は不十分だ」と批判する。
教育評論家の尾木直樹さんも県教委の姿勢を「被害者の申告をもっていじめとする文科省の方針に逆行している。自殺という事実と遺書という証拠があるのだから、学校側はどこに問題があったか調査し深めるべきだ」と指摘。さらに「第三者による調査機関で調査するべきだ。生徒たちも話しやすく、遺族も納得しやすい」とする。
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美穂さんの自殺について県教委は「遺書にはいじめ以外の死の動機が見受けられる」とする。遺族や県教委によると、公表されていない遺書の部分には、厭世(えんせい)観、自責の念などとともに、一編の詩がつづられていたという。県教委は、遺族の意向を聞いたうえで遺書全文の分析を心理学者など専門家に依頼する検討を始めた。
登喜男さんは「遺書の分析は考えたい」とするが、「県教委はいじめの有無から論点をすり替えようとしている」とも懸念している。
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学校は美穂さんの死から何を学んだのか。
同校によると、美穂さんは、亡くなる3カ月前の昨年8月末、プライベートな悩みを担任らに相談していた。しかし自殺前に相談はなく、山田陽介校長は「結果的に美穂さんの異変のシグナルを見逃した」と唇をかむ。
同校は美穂さんの死を受け、教員だけでなく生徒同士もお互いの健康状態を気遣う取り組みを始めた。
また、学校は当時、美穂さんが飛び降りる直前3時間の行動を把握できていなかった。生徒は選択授業の度に教室を移動するため、授業ごとの出欠しか分からず、一日を通して授業に出ているか把握できなかった。この反省から、生徒の朝の出欠状況を職員室に張り出し、授業に行く教諭が確認するようにした。
山田校長は「100%とはいかないかもしれないが、生徒への目配りに最大限の努力を尽くしたい」と語った。
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■「いじめ」調査 文部科学省は今年1月、いじめの定義について、被害児童・生徒の立場を重視した「一定の人間関係のある者から、心理的・物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」に見直した。新定義で行った平成18年度のいじめ全国調査は、件数が前年度の約6倍、12万5000件に増加した。
また、自殺の原因調査についても、主たる理由1つを選択する方法から、「いじめ」「進路問題」など12項目から複数選択できる方法に改めた。山形県教委は渋谷美穂さんの事例について「その他」とし、理由は「不明」と文科省に報告している。