社説
日米MD始動 余計な緊張を生まないか
弾道ミサイルをいち早く迎撃する日米のミサイル防衛(MD)システムが年明けから本格的に動き出す。
きょう十八日にも米ハワイ沖で行われる海上自衛隊イージス艦からの迎撃ミサイル発射試験を経て、陸海のMDは運用段階に入ることになる。
MDは技術的に確立されていないシステムだ。実際に飛来してくる弾道ミサイルを撃ち落とすことができるかどうか、疑問が残る。何より問題なのは、自衛隊と米軍が一体化して行動することが求められる点だ。
日米の軍当局が緊密に連携し、ミサイル情報を共有することがMDを機能させる大前提である。ミサイル発射を察知する能力は自衛隊にはない。米国の偵察衛星が頼りだ。情報把握から撃墜まで日米が分担して事に当たる。
迎撃は三段構えだ。上昇段階(ブーストコース)は米軍、宇宙空間は海自イージス艦、それでも撃ち漏らした場合は自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が撃ち落とす。
どこへ飛んでいくか定かでないミサイルを自衛隊が迎撃するのは、憲法が禁じている集団的自衛権の行使に当たる疑いが濃い。
弾道ミサイルとこれに対する防御策は「矛盾」の典型例であり、軍拡競争を引き起こす可能性も否定できない。
東欧へのMD配備をめぐってロシアと米国、北大西洋条約機構(NATO)の緊張が高まっている。ロシアのラブロフ外相は、日米MDへの警戒感も隠していない。
日本のMD研究が本格化したのは北朝鮮の「テポドン」が日本列島を飛び越した一九九九年以降である。政府はMDの主たる目的として、「北のミサイルからの防御」を挙げている。
北朝鮮のミサイルについて、日本は核、拉致問題とセットで解決を迫っている。MDの運用開始はこれとも矛盾するのではないか。弾道ミサイルの放棄を求める一方で、迎撃態勢を整えるというのは理屈に合わない。
防衛省はPAC3を東京都心に移動展開するテストを計画中だ。レーダーや通信システムがビル街で機能するかどうかを確かめるためだという。
MDシステムの構築には一兆円前後の巨費が必要だ。防衛省の兵器や装備品購入には利権疑惑が付いて回る。守屋武昌前防衛次官と山田洋行元専務の癒着はその象徴である。防衛省に巨額なMDを推進する資格があるのかと問わざるを得ない。
MDの本格運用は、自衛隊がより一層米軍の下請け機関化することにもつながる。なし崩し的に日米同盟が変質していく懸念がある。MDを進める前に疑惑を持たれない防衛省に脱皮することだ。順序を間違えてはいけない。
[新潟日報12月18日(火)]