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【科学】

CO2埋める  地中『おわん』に1000年封印

2007年12月18日

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 新潟県長岡市で実証試験 

 地球温暖化対策が世界共通の緊急課題になる中、温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)を減らす取り組みとして火力発電所や製鉄所、セメント工場などの排ガスから分離・回収したCO2を地中に埋めこむ(貯留)技術が注目されている。国内では新潟県長岡市で実証試験を実施中。これまでの試験・解析では、千年後も安定して閉じ込めておくことが可能−としている。 (栃尾敏)

 JR長岡駅から車で約三十分。財団法人・地球環境産業技術研究機構(RITE)の岩野原実証試験基地がある。広さは約一万二千平方メートル。作業小屋などが少し残っているだけでほぼ更地の状態。「今は観測結果に基づく総合解析中。地上設備はほとんど撤去済みで、来年三月で試験終了です」。RITE・CO2地中貯留プロジェクトリーダーの水野康信主席研究員はそう説明する。

 CO2を火力発電所などの発生源から分離・回収、輸送し、地中や海洋に貯留する技術はCCSと呼ばれる。分離・回収では、CO2の吸収と再生が容易な液体を使う「吸収法」、CO2が通過しやすい膜を利用する「膜分離法」などがあり、RITEは製鉄会社や機械メーカー、電力会社と協力し研究している。

 回収したCO2を環境に影響を及ぼさないよう地中や海底に閉じ込めるのが貯留で、その基礎実証試験を岩野原基地で二〇〇三年七月から開始。〇五年一月までに地中にCO2一万トンを入れた。

 基地周辺は国内での天然ガス主要産出地。ボーリング調査が繰り返され、地質の情報も多いため選定されたという。

 地中に埋める技術には▽地下深部の塩水を含んだ地層(帯水層)への貯留▽石油の噴出圧力が弱まった油田で、生産用とは別の井戸を掘り、CO2を注入して圧力を高めより多くの石油を採掘する石油増進回収▽枯渇した油田や天然ガス田への貯留▽石炭層に吸着させて固定−などの方法がある。RITEが行っているのは帯水層への貯留だ。

 ここの帯水層は砂岩で厚さ約六十メートル。その上にキャップロックといわれる液体や気体を通さない泥岩のような緻密(ちみつ)な層がありCO2が上がってこない。またキャップロックがおわんを伏せたような形をしており、水より軽いCO2を安定に閉じこめられるという。

 注入作業の流れは、新潟市内の工場で製造された工業用の液体CO2をタンクローリーで搬入。ポンプで加圧し、さらにヒーターで加熱、約七〇気圧の気体状態にして地中に押し込む。

 注入されたCO2は、液体と気体の性質をあわせ持つ「超臨界状態」になる。このCO2が地中でどうなるかを観測した結果、予測通りに帯水層に広がることを確認。安全性の評価で「千年後も安全」(水野さん)だった。〇四年十月の新潟県中越地震や今年七月の中越沖地震でも影響はなかった。キャップロックが、おわん型ではなく板のように平らな場所でも貯留できそうなことも分かってきたという。

 地中貯留技術そのものはそう難しくないが、実用化への最大のハードルはコストだという。現在、CO2一トンあたり七千−一万五千円かかる。これを一五年までに三千円に下げるのが目標だ。RITEの樋口正治専務理事は「コストは安全性をどこまで求めるかにかかってくる。CO2の特性や地中貯留への理解を深め、危険ではないと理解してもらうことが大切」と話す。

 ノルウェーでは帯水層への貯留を、カナダでは石油増進回収を実用化しており、日本の技術が先頭を走っているわけではない。今回の実証試験終了後、国は貯留量十万トン規模の施設をつくる計画だ。

 国内で貯留できるCO2は約千五百億トンと推定されている。毎年十億トン以上排出されるので長くはもたないが「いずれ脱化石エネルギーになる。それまでの橋渡しの技術」と樋口さんは説明。「ここで実証した技術を次のステップにつなげたい」と話す。

 

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