担い手減少「福祉崩壊」危機

 福祉系の大学や専門学校を卒業しても、福祉や介護の仕事に就職しない人が増えている。福祉・介護職は低賃金・劣悪な労働条件に置かれ、「働いても先が見えない」といった現実があるからだ。このような傾向は、昨年4月から全面実施された介護保険制度の改正≠ナ顕著になっており、福祉・介護現場は人材の確保が困難で深刻な人手不足に陥っている。新規就業者が減る一方で、離職者は増えるという悪循環。こうして高齢化社会を支える担い手が減少する中、福祉・介護の崩壊≠懸念する関係者も少なくない…。
(山田利和・金子俊介)

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福祉系大学から事務職応募
 厚生労働省・介護サービス施設事業所調査等によると、全産業の平均月収は33.1万円。これに比べ、福祉施設介護員は21.1万円、ホームヘルパーは19.9万円と、介護職を例に取ると、全体の約6割という低い賃金水準にとどまっている。また、1週間の労働時間でも、全産業の平均が35.6時間なのに対し、介護職は37.6時間と長くなっている。
 このように、勤務時間は長いにもかかわらず賃金は低いという労働条件等から離職する人は増えており、介護職の離職率は全産業平均の17.5%を上回る20.2%。特に訪問介護の職員は今年、介護保険制度の導入以来、初めて約8千人(対前年比4.5%)も減少した。

 こうした現状にあって、福祉系の大学や専門学校を卒業しながら、福祉や介護現場に就職しない人たちが増加している。
 東京都内の福祉・介護関連団体の職員は「介護職の養成校で社会福祉士や介護福祉士などの資格を取得しても、卒業後、現場に進まない人が増えている。一方、大阪や東京等にある専門学校で、入学者の定員割れを招く事態も起き、最悪の場合、閉校するケースさえ出ている」と指摘する。
 また、栃木県内の総合病院が事務職2人を募集したところ、80人から応募があったが、多くは福祉系大学の卒業者だった。「福祉系大学を出た人が事務職に応募してくることは以前にもあったが、近年、顕著になっている」と、この病院の院長は心配する。「高齢化社会の到来で、福祉・介護職は今後、脚光を浴びる職場になるとしながら、国は『金が掛かる』からと言って福祉から手を引き、必要な施策を講じていない。このため、専門の資格を取りながら、(劣悪な労働条件等もあり)福祉の現場に就職できず、福祉系の大学を育った人が社会から受け入れられていないという問題が起きている」と、国の姿勢を批判。ある大学では、卒業生の約4割が民間企業に就職しているという。

制度改革≠ナ人材難拍車
 
新規就業者が減り、離職者が増える福祉・介護現場の悪循環−。
 この傾向は、昨年改正≠ウれた介護保険制度で拍車が掛かっているという関係者の指摘は少なくない。特に問題なのは、「過剰なサービスが利用者の自立を妨げている」といった理由で軽度≠フ要介護者が「要支援」に認定され、介護給付の対象ではなく「(新)予防給付」に移されたことだ。これに伴い、介護サービスの対象者は改正前より大幅に絞られ、事業所(介護職員)が提供できるサービスも狭められた。このような介護サービスの抑制によって事業所の収入は激減。結局は、介護現場では常勤雇用が難しくパート(非常勤化)が進み、職員はより不安定で低い賃金を強いられることになっている。

 反面、全日本民主医療機関連合会の調査では、4割以上の介護職が「収入が低い」・「休暇が取れない」、ひいては「働いても先が見えない」と苦悩しながらも、その6割以上が「働き甲斐のある仕事だから」と回答。厳しい現実に直面する中、意欲や使命感などの高い志を持った担い手も少なくない。

 このように現場を担う人たちの努力で福祉・介護が保たれている状況に関し、全日本民医連は「人材不足の中、担い手の意欲や使命感だけでは限界があり、このままでは疲弊してしまう。国は医療(病院)から在宅へと誘導しているが、明確な福祉の受け皿は未だ整備されていない。根本的には、福祉・介護職の労働条件や生活を向上させて、将来に展望を持てるような報酬に引き上げないと、人材不足から介護保険制度が崩壊してしまう。国は福祉・介護の現実を直視し、早急に対応すべきだ」と訴えている。


更新:2007/12/18   キャリアブレイン

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