◇航空・鉄道事故調査委、目撃者から聞き取り
静岡市葵区でNHKの取材用ヘリが墜落し、乗員2人が死傷した事故から一夜明けた10日、国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会の調査官3人が現地入りし、本格的に原因の調査を始めた。なぜ事故は起きたのか。専門家の話などから原因を探った。【田口雅士、望月和美、浜中慎哉】
死亡した小宮義明機長(57)は事故の約10分前、重傷を負った亀山幸代整備士(33)を通じ、「(操縦席の足元にあり機体の方向を制御する)ラダーペダルの調子が悪い」と所属会社「オールニッポンヘリコプター」に連絡。その後ヘリは上空でホバリングした後、高さ約50メートルの地点から数回転しながらきりもみ状態で墜落したとみられる。
この日、事故調・県警・県などは約35人で、事故現場に置かれたままの機体のテールローター(後部回転翼、以下テール)がある後部やラダーペダル周辺を調べた。調査後、事故調の福田公爾調査官は「機体は前方から落ちたと考えられ、メーンローター(主回転翼、以下メーン)4枚がズタズタになっている。テールの異常は外見的には認められない」などと説明。11日以降は機体調査をいったん中断し、目撃者の話を聴く方針だ。
専門家はどう見ているのか。加藤寛一郎・東大名誉教授(飛行力学)は「メーンの回転を制御するテールに、不具合があった可能性が高い」と指摘する。テールはメーンの回転方向とは反対方向に力を加えバランスを維持するもので、小宮機長が異常を伝えたラダーペダルで操作する。航空評論家の青木謙知氏も「エンジントラブルも考えられるが、映像を見る限り、テールが効かなくなり、メーンの回転力を打ち消せなくなったと考えられる」と説明する。
一方、前田弘・京大名誉教授(航空工学)は「テールだけでなく、メーンにも異常がなければあんな落ち方はしない。ラダーペダル、テール、メーンなどの異常が複合的に起きたのではないか」とする。
今後県警は、小宮機長の業務上過失致傷容疑での立件を視野に捜査する。その際、小宮機長の操縦にミスがあったかどうかが焦点になる。
加藤名誉教授は、緊急時に飛行中にエンジンを停止させ竹とんぼのように風圧でメーンを回す「オートローテーション」操作について言及し、「ホバリングしていることなどを考えると、操作は可能だったはず」とする。また前田名誉教授は「機体が回転し始めるとどうしようもない。不具合発覚後すぐ機体の高度を下げ着陸させるべきだが、操作が間に合わなかったのでは」と推測する。
毎日新聞 2007年12月11日