急な病気やけがで救急車を呼んでも、受け入れてくれる病院が見つからない−。そんな事例が続いている。何カ所も断られた揚げ句、妊婦が死産したり、自宅で血を吐いた男性が亡くなったりした。
総務省消防庁や厚生労働省で救急搬送の改善策の検討が始まった。救急医療そのものの充実に加え、救急現場と医療機関の連携向上やベッド確保など課題は山積している。
救急車の中で、患者が長い時間苦しまないようにしたい。医師不足とリンクする問題でもあり、総合的な対策が求められている。
消防庁が全国の妊婦救急搬送について調べたところ、2006年には3カ所以上から受け入れを拒否されたケースが667件あった。病院が決まるまで、現場で30分以上待った例も1012件に上る。
長野県内では妊婦の搬送を拒否されたケースは13件だった。大半が2回目で受け入れ先が決まった。
断った理由として、処置が難しい、医師が手術中、専門外である、などが挙がっている。人手が足りず、急患に対応しきれない状況を反映している。
消防庁が検討する改善策の一つは、受け入れ可能な病院を把握する「救急医療情報システム」の活用である。このシステムは、病院側が空きベッドの有無などの情報を入力し、インターネット上で関係者が見られる仕組みになっている。
しかし、病院によっては情報の更新が遅く、「受け入れ可」の表示になっていても断られることもある。システムはあっても、使いにくいといった声は少なくない。
現場の救急隊員が必要とする情報を提供できるよう、運用を見直す必要がある。たらい回しをなくすには、重症患者の受け入れ先を確実に見つけるコーディネーター役の医師らも必要だろう。
このほか、患者の重症度など、救急隊員が医師に状態を正確に伝える工夫も検討し、来年3月までに報告書をまとめる。現行の体制でできる改善をまず急ぎたい。
産科救急では、新生児のベッド不足という問題もある。厚労省の調査によると、リスクが高い母子に対応する総合周産期母子医療センターで、妊婦の搬送を断った事例の大半は、新生児集中治療室(NICU)が満床であることが理由だった。
小さく生まれたり、重い病気を抱えて、長く入院する赤ちゃんが増えているためだ。呼吸器などが必要な場合でも、NICUを出て地域の病院や自宅で安心して過ごせるようにしたい。ベッド不足を解消するには、小児医療の充実も見逃せない課題である。