◎ふるさと納税導入へ 財源より「縁」強める手段に
来年度の与党税制改正大綱に盛り込まれた「ふるさと納税」は、財源確保ありきで考え
るより、出身者との「縁」を強める手段として有効に活用したい。
北陸新幹線金沢開業へ向け、石川県は今月、関東在住の県人を集めた首都圏いしかわ交
流会を都内で開催するなど出身者との交流強化に乗り出しているが、ふるさと納税は県人が生まれ故郷との関係を見つめ直すきっかけになろうし、自治体もふるさとに貢献したいという思いを引き出す手立てになりうる。
ふるさと納税は、寄付金税制を応用する形で導入される。対象となる寄付金額は五千円
以上で、住民税額の一割を上限に、寄付金額のうち五千円を除いた分が住民税から差し引かれる仕組みである。
一割の上限が設定された以上、寄付を受ける自治体にとっては過大な期待は禁物で、都
市と地方の税収格差を埋めるほどの効果は見込めないだろう。だが、納税分の一部にせよ、本人の意思によって税金の納め先が選べるのは画期的なことであり、活用する、しないという選択肢ができるだけでも、ふるさとへの関心を促す機会にはなる。
自治体がこれから活用をPRするにしても、寄付を受けるにふさわしい地域づくりを進
めているかどうかが問われることになる。ふるさとの将来像をどのように描こうとするのか、今まで以上に積極的に発信する必要がある。ふるさとを離れた人にとっても、故郷に恩返しをしたいというのは自然な感情であり、そうした思いを丁寧にすくい取っていけば、自治体と出身者の、より濃密な関係を築くことができるかもしれない。
「ふるさと納税研究会」の報告書では、集まった寄付金の使途を明らかにする基金創設
も提言されているが、納税者も寄付がどんな施策に使われるかは大きな関心事であり、検討する価値はあるだろう。
ふるさと納税に積極的な福井県では、制度を先取りする形で、九月にホームページで寄
付の受け付けを始め、今月からはクレジットカードで寄付金の払い込みができるようにした。自治体間でふるさと納税の受け止め方に温度差が生じているが、寄付金集めの競争のように前のめりにならず、出身者らとの絆を太くする一形態ととらえていきたい。
◎防衛省の裏金工作 これも防衛機密なのか
防衛省が情報収集などに用いる報償費の多くを架空領収書で裏金にする不正経理を長年
続けてきたという。防衛省には公表できない防衛上の機密があることは理解できても、防衛機密を「隠れみの」に、予算がいい加減に使われているのではないかとの疑念を国民に抱かせ、防衛省に対する信頼を著しく損ねるものである。
軍事関係の情報収集は防衛省の重要任務であり、そのためのいわば機密費として予算化
されるのが報償費である。その予算が目的通りに使われず、裏金としてプールされて実際の使途が分からないというのでは、情報収集の業務まで手抜きされているのではないかと疑いたくなる。
防衛省は省昇格によって、自衛隊を管理運営する官庁から、防衛政策も担う一流の政策
官庁に脱皮することを悲願としてきたはずである。守屋武昌前防衛事務次官が収賄容疑で逮捕された上に、このようなずさんな公金管理を続けているようでは、いつまでも「二流、三流官庁」のそしりを受けることになる。
防衛省はこれまで、統合幕僚長の下にあった情報本部を大臣直轄組織にし、本部内に統
合情報部を新設するなどして、情報収集機能の強化を図ってきた。〇七年度予算で約一億六千四百万円の報償費は、情報提供者に対する協力金など主に情報収集の経費に充てられることになっている。報償費は国の事務・事業を円滑に進めるという目的で、内閣官房や外務省などでも予算化され、一般に内閣官房機密費などと呼ばれる。
国の業務に支障をきたす恐れがあるという理由で報償費の使途については情報を開示し
なくてもよいとされるが、外務省の報償費流用事件や警察本部の報償費裏金化問題などが続き、報償費の適正化が図られてきたところである。それにもかかわらず、防衛省で不正経理がひそかに続けられてきたのは極めて遺憾である。裏金化の実態を国民にきちっと説明しなければならない。
守屋前次官の逮捕を受けて「防衛省改革に関する有識者会議」が設けられ、組織見直し
の議論が本格化している。防衛省・自衛隊は国家、国民の安全を守る最後のよりどころであり、名実ともにそれにふさわしい組織になってもらいたい。