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■いま解き「ミニバブルなのに“家が建たない”」 2007/12/14 放送

シリーズ『いま解き』。

都心はタワーマンションの建設ラッシュで、一時はミニバブルとまで言われた建設業界。

ところが夏以降、新築の住宅着工件数は急激に落ち込んでいます。

とくに9月は、2006年に比べて44%も減ってしまいました。

こうした現象、実はマンションだけではなく、商業ビルや一部の住宅でも起きています。

今回の「いま解き」は、その背景に迫ります。




<Aさん>
「なんで花咲いてんねや」
<Aさんの妻>
「えらいキレイ花やで」
<Aさん>
「ビックリするわ」
<Aさんの妻>
「うん…」

更地を目の前に、たたずむ夫婦。

本当なら、マンション建設の真っ最中のはずでした。

Aさんは、大阪市内に6階建ての賃貸マンションを建て、その最上階に住む予定でした。

終の住みかにしようと、この計画に全財産をつぎこみました。

ところが…

<Aさん>
「なかなか申請が下りないということで、当初の予定よりも半年ぐらい(着工が)遅れている」

当初の予定では、完成は2008年3月。

しかし、年末になっても全く工事が始まっていません。

2006年夏から始めた借家暮らしも先が見えず、家賃はかさむばかりです。

<Aさん>
「ギリギリのお金でやってる中、『へたしたら建たないのでは』という不安の方が大きい」


<姉歯元一級建築士 〜2005年 証人喚問より>
「病気がちの妻が入退院繰り返していて、葛藤(かっとう)しました、自分の中で」

2005年、日本中を騒然とさせた「耐震偽装問題」。

一級建築士による構造計算書の改ざんという、前代未聞の犯罪でした。

国はこの反省を活かして2007年6月、建築基準法を改正しました。

法改正のポイントは3つ。

「構造計算基準の見直し」と「審査期間の延長」、そして「2重チェック体制の導入」です。

鉄筋コンクリートや3階建て以上の木造建築については、従来の審査に加えて、国が指定した専門家による適合性判定が義務付けられました。

建築士による勝手な解釈を阻み、一定の基準を設けて審査しようという狙いです。

しかし、この影響で申請に時間がかかるようになり、Aさんのマンションのように工事が始められない建物がどんどん増えています。

<真伏仁一級建築士>
「全然違いますよ、いままでのボリュームとは」

Aさんの物件の意匠設計を担当する真伏仁一級建築士。

法改正では、これまで求められなかった書類の添付を義務付けられるなど、仕事量が5割増えたと嘆きます。

<真伏仁一級建築士>
「エレベーターには遮煙性能のある扉を使うという表現をしているにもかかわらず、認定書を取れと言うんです。(法改正で)証明する書類を付けろと言うんです。僕らがこれを現場で作ろうとしてこの申請を出してるのに、なんでこんなものが要るのか、ということですよ」

この道25年。

これまで数多くの物件を手がけ、賞も受賞しました。

性悪説の立場に立つ今回の法改正は、一級建築士としてのプライドを傷つけるものだと話します。

<真伏仁一級建築士>
「施主にとっての安全性の保障というのは大切だが、僕らもプロですから。法改正を考えた人は、現場をわかってない。ここまで言われるのなら、やめたい」


法改正以降、マンションや工場などの着工件数は大きく落ち込み、建設関連業の中には、原油や人件費の高騰もあって、急速に資金繰りが悪化するところも出ています。

<住宅情報ネットワーク・荻野重人理事長>
「デベロッパーだけに限らず設計事務所や中堅ゼネコンも、プロジェクトが長くなって、予定していたお金が入らないなど、経営が悪化して廃業するところもある」

国は審査を一部緩和するなどの対策をとり始めましたが、法改正そのものには自信をみせます。

<冬柴鉄三国土交通相>
「法改正の方向性は私は間違ってなかったと思う。円滑に運ぶための手立てを迅速に打つ必要があったと反省もしている」


波紋はこんなところにも広がっています。

滋賀県大津市で工務店を営む伊東裕一さん。

手がけるのは、古民家などに用いられてきた伝統的な工法による物件です。


ボルトやナットは一切使わずに木材をつなぐこの工法は、滋賀県の「余呉型」や富山県の「枠の内造り」など、豪雪にも耐える地域特有の建築文化を育んできました。

木のしなやかさを利用していて、耐震性も折り紙つきです。

しかし、こうした工法では、壁が少ないことなどを理由に、通常とは違う方法で耐震性を計算する必要があります。

法改正では、マンションなどと同様、2重の審査を義務付けられた上、専門知識を持つ審査員の不足などから、ここでも建築確認申請が通りにくくなったというのです。

<梓工務店・伊東裕一社長>
「(Q.木材は置いておくと傷む?)傷むというより、ゆがむ」

工場には、すでに加工された木材が建築が始まるのを待っています。

これ以上着工が遅れると、伊東さんが抱える20人余りの若い職人も、工務店ともども立ち行かなくなります。

何より伊東さんが納得できないのは、審査の標準化を名目に、指定されたもの以外は認めないかのような国の姿勢だと話します。

<梓工務店・伊東裕一社長>
「『こうでなければ確認下ろさへんぞ』というようなことを言うのは、日本の建築文化に対する冒とくだと思うし、それでは日本の建築のよさというのは完全になくなってしまう」


マンション建設がストップしたままのAさんはこの日、建築士と打合せを行いました。

<真伏仁一級建築士>
「確認申請がいつ下りるか、うちも読めない」

<Aさん>
「当初の計画より余分なお金がかかっている。私らとしては、バカにならない金額。生活がそれだけ圧迫される。これがもっと長引くと、建てられないのが現状となってくると思う」


もとはと言えば、安全への裏切りが招いた思わぬ大混乱。

家を建てたい人は、ガマンを続けるしかなさそうです。




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