統計資料を集めた「日本国勢図会(ずえ)」というロングセラーがある。どこかで聞いたようなと思ったら、入試問題や参考書に掲載された表・グラフの出典として目にしたことがある。
創刊者は岡山市出身で第一生命を創立した矢野恒太(一八六六〜一九五一年)。保険の仕事から統計に関心を持った矢野は、客観的なデータの重要性に着目した。
わが国初の国勢調査が実施されたのは一九二〇年。その七年後に民間初の統計年鑑として初版が出た。矢野は序文で「本書は講堂のない青年塾の一部である」と記しており、若者が活用することを狙っていた。
当初は二、三年おき、一九五四年からは財団法人・矢野恒太記念会が毎年発行し、既に六十五版を重ねる。人口や産業、国民生活などの幅広い分野のデータと解説、それに「日本映画の復活」といったトピックスが世相を伝える。
「失敗学」で知られる畑村洋太郎工学院大教授は「わが家の書棚には過去三十年分がそろっている。ページをパラパラめくるだけで楽しい」(『数に強くなる』岩波新書)というファンだ。インターネットで、手軽に最新データも入手できる昨今だが、長年培われてきた信頼は厚い。
「図会」とは絵や図を集めたもので、矢野は国勢全般の図説百科事典をイメージしたという。この本を利用して、新しい年の経済動向などを予測してみたい。