
登山のテクニック
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雑記帳のページにあった「安全登山シンポジウム(日本山岳レスキュー協議会)2002年10月27日」
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●山での救急法
@ 山での事故と傾向(山で手助けをする場合)
最近の応急手当や救護そして搬出は、「善意の行為」なのだが、いっぺん手助けをしたら救助隊や公的機関に引き渡すまで、最後まで面倒を見なくてはならなくなっている。途中で立ち去ったり放置すると、あとで民事などの法律問題に発展してしまうことがあるから。「手助けは」あくまでもその人のモラルに依存することなので、ある意味で頭のいい人によっては「後々が面倒なので見てみぬふりで素通り」という場合もある。明日は我が身でお互い様という気持ちで、「見てみぬふりで素通り」という対処はしたくないものだ。
A 街中での救護と山での救護の違い
街中では救急要請があってから救急車が到着するまでの平均時間は約5分。山では1時間とか1日といった単位になってしまう。天気や気温などの変化も著しいし、怪我人の状態も刻一刻と変化するので、怪我人の観察と、救助機関への連絡・メモなどを定期的に行い、長時間怪我人と付き合う覚悟をしておかなければならない。 |
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B 救護で何を気を付けるか
怪我人の意識がない場合は別として、応急処置をする場合は怪我人の怪我の状態、それに対する処置の方法を納得できるように怪我人に説明し了承を得てから処置を行なうこと。→インフォームド・コンセント
また、処置の最中も黙々と作業を行なわずに、作業の内容などを説明しながら絶えず声を掛けながら行なうこと。→負傷者に恐怖心や不快感を与えない配慮をする
救護人は興奮して負傷箇所を過大に表現したりする傾向がある。事故者へは冷静にありのままを説明し、むしろ元気づける配慮をする。
事故者側の気持ちの持ち方はストレスの管理
→リラックスすること。
救助は一方的な立場からの強引な処置や搬送はせず、可能であれば事故者にも手当てに参加させて自発的な処置を行ないながら事をすすめるのが望ましい。→(常に観察は忘れずに) |
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◆感染の予防処置
出血や呼吸のない怪我人には、無防備に処置をすると肝炎・HIVなどの感染があるかもしれないので、医療用のゴム手袋・人工呼吸の補助具などが最近は出回っているので、救急パックに入れておきたい。
C 事故現場での行動
○現場の状況を判断する
・安全確認
・現場の確認
自分らで救助が可能か、不可能か→不可能の場合は救助要請をする
・現場状況から怪我の大きさ(ダメージ)を推測する
2倍の重量は2倍のエネルギー、2倍のスピードは4倍のエネルギー。
例えば、何m滑落したか、スピード、距離、重量などによる負傷である
か、その場の状況を観察する。(負傷箇所を外傷のみで判断してしま
うことを防ぎ、ダメージの大きさを判断して着衣に隠れた負傷箇所も見
落とさないために)
・頭、背中、首などの損傷の場合はまず固定。むやみに搬送はしない。
・搬送はドラッグ法など(少人数での搬送はあくまでも安全地帯までの搬送が目的)
脇の下に手を入れて
ドラッグする方法
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衣服を引っ張って
ドラッグする方法
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毛布やシートで包んで
ドラッグする方法
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ザックをつなげて
ドラックする方法
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D 初期評価と継続
負傷者を観たとき、まずは以下のA・B・Cについて観察する。
A、気道(Airway) B、呼吸(Breathing) C、循環(Circulation/血液の循環→脈)
・声を掛けて返事があればABCともに一応OKが確認できる
・脈は手首と、首の喉仏の両脇で診る。
手首で診る場合は、まず握手をして人差し指だけ相手の
親指の付け根にずらし、中指・薬指も添えて3本で親指
の付け根-手首部分を探る

※親指では診ないこと
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喉仏の両脇で診る場合
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・脈は強弱などもあるので30秒測りそれを2倍する。
・手首で脈拍の反応がない場合は最高血圧が90mmHg以下になっている。
・喉仏で脈拍の反応がない場合は最高血圧が60mmHg以下になっている。
E 頭・背中・腰の負傷
怪我人を診る場合、頭のてっぺん〜膝までの区間(キラーゾーンという)は特に重要なの
ですばやくこの区間を観察する。→負傷していたら動かさない
・目や耳のまわりに「くま」ができている場合→「ラクーン・サイン」−頭蓋底骨折
・瞳孔を調べる
眼前に手をかざしてすぐ外す
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・背中を負傷している場合
両手で顔を支えて頭を固定する(頭を動かさない)
そのまま平らに寝かしつけて、丸太のように扱う
(ログロール法)
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・意識がある場合は、負傷者を水平の体位(仰向け)にする
顔が赤い時は頭が上がる体位をとる。青白い時は頭を下げる体位。
背中を負傷している場合はうつぶせの体位。
・意識がない場合は気道が確保された体位をとる→昏睡体位

昏睡体位
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ザックで頭・首・背中を固定する技術
ザックは、天・地を逆にする
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ウエストベルトの部分で固定する
額にはタオルなどを挟む
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F 出血のコントロール
○いっぺんに出血が出る場合は危ない
・直接圧迫法→出血の部分強く3,4分押える
(このような状況の時、止血する人が動揺していて強く押していないことが多い)
この方法は最も簡単確実な方法でほとんどの出血は止められる。なお頭や顔は
血管が多く小さな傷でも出血量が多く、大けがに見える場合があるので留意する。
1.手足から出血している場合は、受傷部を心臓よりも高い位置に上げる
2.傷口が汚れている場合は水で洗う
3.滅菌されたガーゼ、ハンカチ、タオルなどを出血部位にあてる。
※滅菌されたものがない場合でもライターなどで軽くあぶると滅菌できる。
傷口に当てたガーゼなどに血が沁みても取り替えてはならない。その上にさらに
ガーゼなどをあてて押し続ける。押さえるかわりに包帯を巻いた場合は、その先の
「心臓から遠い側」が冷たくなったり腫れてきたら包帯を少し緩める。
・間接圧迫法→動脈からの激しい出血時などに、直接圧迫法と併用して行う。傷より
も心臓に近い止血点を指や手で骨のほうに強く押さえる。
○止血点
■止血帯による止血法−(海外では止血法としては除外されている)
止血帯による止血法は、手足が落石などによって潰されたり、切断された場合などで、
失血死が予測される場合に限り行う。止血帯による止血は、止血部位よりも先の健康
な組織の壊死を引き起す。従って止血帯を使った止血法は、出血多量による死亡が
予測される場合に限って行う最後の手段と考える。
まず、幅5〜7p程度の布(三角巾・手ぬぐい・布きれ・包帯など)を用意する。
1.傷から3〜5p心臓に近い部分に1で用意した布をあてて結ぶ。
2.結び目の下に棒を差し込んで利き手でつかみ、他方の手の人差し指と中指を結び
目の下に差し込む。
3.差し込んだ2本の指で下に押さえながら、棒を引き上げて捻って締める。
4.指が締め付けられる程度に締まったら、指を抜いてもう一度しっかり締め付ける。
このとき必要以上に強く締めてはならない。出血が止まる程度でよい。
傷より先の爪を押して、赤みが戻るまでの時間で締め具合の判断してもよい。
(爪を押して赤みが2秒以上経って戻る場合は締めすぎ。)
5.緩まないように棒の端を布などで縛っておく。止血した布に直接日時を記入しておく。
・処置後も、怪我人の状態と負傷箇所の観察は引き続き最後まで行なう
・定期的に脈と呼吸のチェックをする
呼吸は怪我人のお腹に手の甲を置いて、膨らみ&へこみで1回を15秒又は30秒測り
それを4倍又は2倍して計算する。
F 筋肉・関節・骨の損傷
損傷の観察は [変形しているか] [開放性の傷であるか] [痛みはどうか]
[腫れはどうか] の4つに注意する
●負傷箇所は初期の症状よりも、後になって悪くなることが多い。症状が出ないうちに
無理に怪我人を動かしては危険
○処置はR・I・C・E・Sの手順
1.安静(Rest)
2.冷却(Ice)
3.圧迫(Compres)
4.高きょ(Elevation)−
5.支持固定(Support))
冷却や圧迫など手当てをする場合は、衣類は引き裂いて怪我の部位を露出させて
から処置をすること。処置後は安全ピンや包帯などで衣服を仮止めしたり覆って仮修復
しておく。
・骨の場合の手当
「箇所の選定」
痛い部位を周りから徐々に触っていき、最も痛い場所で10、あまり痛みを感じないところで1、その中間の痛みの所で5、最終的には、10段階ぐらいで負傷者自身に応答させ、痛みの中心場所を選定する。
→選定次第、すぐにアイシングに移行する。 |
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添え木を当てて負傷箇所を固定する場合は、添え木の幅が負傷箇所より広いほうが良い
また、添え木を当てる場合はまず脈の検診、次に痛みに比較的楽な方向を探して引っ張って負傷箇所を伸ばし、それから添え木をあてる。
添え木ごと包帯などで包み巻き固定は、脈の検診と爪の血行状態のチェックを忘れず血行を圧迫しないように固定する。
また、A.B.C.の観察も継続する。 |
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添え木には、現地調達物、本雑誌新聞類等を束ねたもの、他に以下のような物もある
変形自在な素材のサム
スプリットという添え木材

頭・首の固定も可能
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スノーシューを使って
添え木に利用する
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山道具屋で市販されている
空気を入れて包み込み固定
の添え木材

↑大中小3枚入で1600円位 |
・開放性の骨折の場合は添え木はしない
下図のような添え台のようなもので患部周辺をサポートして包帯する
三角巾を折り込む


円座風に折り
込む |
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開放性の傷口を囲んで
サポートしてから包帯する
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H 落雷
・落雷は即死のほか負傷は、裂傷、火傷などがあるが、重度不整脈に陥っている場合
がある。外傷は薬品や冷却などで処置するとして、重度不整脈の場合「心マッサージ」
を行なうことによって脈が正常に戻る場合がある
心マッサージ(心肺蘇生法)
・心臓の位置
心マッサージを行うためには、正しい
心臓の位置を知ることが必要。
心臓は図のように、ほぼ胸の中央で
やや左より位置している。
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1.圧迫部位を決める
傷病者を平らな硬い場所に仰向けに寝かせる。エアマットなどの柔らかい物の上はダメ。
傷病者の足側になる手(右の図では右手)の人差指と中指で、肋骨の縁に沿って中指が骨部にあたるまで中央に移動させ、その所で胸骨上に置かれた人差指に添えて、もう片方の手(左手)は、手の付け根の部分を胸骨に置く。 |
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人差し指と中指で探っていたほうの手(右手)を外して、左手の上に重ねて、両方の手の指を反らす。 |
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2.圧迫のしかた
背筋を伸ばし、腕もピンと伸ばして上半身の体重を利用して垂直に圧迫する。
圧迫は成人で3.5〜5p押し下げる。回数は1分間に80〜100回のリズム。
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I 寒冷暑熱障害
真夏の日射病、冬の低体温症・凍傷など。
・日射病
夏山などで炎天下を長時間歩いたときなどにかかりやすくなる。日射病はいったん
かかると極めて危険である。日射病を避けるためには、炎天下では必ず帽子を被り、
適度な水分を補給し、また日陰で休息を取ることも大切である。
○症状 顔が赤くなり、耐え難い暑さ、頭痛、吐き気がする
○処置
1.衣服を脱がせ風通しの良い涼しいところで横にする。
2.意識が正常なら薄い食塩水をどんどん飲ませる。食塩水の濃度はコップ1杯の水に
対して小指の先程度の食塩。また、スポーツドリンク飲料も効果がある。ただの水を
飲ませると、体液が薄くなって筋肉の緊張に異常をきたし、けいれんを起こす場合が
ある。
※次の場合は、ヘリコプターで緊急に病院へ搬送する必要がある。
・吐き気が強くて水が飲めない場合
・けいれんが足や腹におこってとれない場合
・低体温症
長時間寒冷にさらされ、身体の深部温度まで下がってくると、筋肉、脳、内臓器官の
働きが低下し最終的には死亡する。低体温症の原因は「長時間濡れて風に吹かれる」
ことなので、冬山だけでなく夏山でも十分に起りうる。
低体温症は外見的には何の異常も見られないために、単に疲労から来る気力の低下
と思われがちだが、処置が遅れると軽症から重症に陥って死亡する危険がある。
<軽症の場合>
○症状 寒気を訴え、多少の震えを伴う。行動中は震えがはっきりしないこともある。
身体を暖める事以外に関心を持たなくなり、仲間とたてた目的を果たすことに否定
的な態度を取り始める。また、筋肉の協調運動がうまくできなくなり、つまづいたり、
細かい運動が鈍くなる。
○処置
今以上に冷えないように加温する。両脇、そけい部、首、頭を湯たんぽや使い捨てカイロなどで加温する。ただし低温火傷に注意する。加温ポイント箇所→
事故者を歩かせるなどの運動をさせると心室細動(不整脈)を引き起こす危険があるので、必ず搬送する。
<重症の場合>
○症状
・体温がさらに下がると、精神活動に変調がみられる
ようになる。
・思考力が低下し決断力が鈍る。
・寒さから身を守ることに無関心になる。
・訳のわからないことを言う
・意識がはっきりしているときとそうでないときが
交互に繰り返される
・目が見えなくなる
・まるで死んだようになる
○処置
事故者を極めて丁寧に扱い動揺を与えない。
手足のマッサージをしてはならない。
軽症時の処置に加えて気道確保を行う。3〜4時間かけて正常な体温に戻すようにきわめてゆっくりと加温する。正常な体温の人の添い寝が効果的である。
心室細動や心停止があれば、心マッサージを通常よりもゆっくりと行う。
人工呼吸は通常の半分のペースで行う。まったく死んでいるように見えても諦めない。 |
加温ポイント
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・凍傷
凍傷は手足や顔、耳などが寒気にさらされ、皮膚血管が収縮して循環する血液量が
減ることによって起こる組織の傷害。さらに進むと、凍傷部位は広がり深部組織まで
侵される。
○症状
一般的にはまず冷たく感じ、次に痛くなる。さらに凍傷がすすむと知覚が麻痺し痛みを
感じなくなり、患部は凍結して白蝋状態から数日間で黒くなる。
○処置
すみやかに下山し病院に収容する。やむを得ず山中で加温の時は次のことに注意する。
・再凍結するおそれのないところまで移動する。
・身体を締め付けて血行を阻害するものを取り除く
・お湯に付ける場合、湯の温度は38°〜42°に保つ
・凍傷部位は湯の中で浮かせ、容器の側面や底に付けてはならない。
□予防
足では防水性の悪い靴で靴下を湿らせないこと、また靴ひもやアイゼンバンドなどは
きつく締めすぎないこと。フリースや化繊素材の手袋なども湿ってきたら要注意である。
予備の手袋・靴下を準備しておき湿ったらすぐに交換すること。
J 高度障害
高所や低圧環境下で引き起こされる症状の総称である。軽傷の時は急性高山病、
重傷になると肺水腫や高所脳浮腫となる。
○症状
<軽度の場合>
頭痛、めまい、吐き気、耳鳴り、疲労感(身体が重いなど
<重度の場合>
脈拍数の増加(安静時1分100回以上)、呼吸困難、ぜい鳴、泡状の痰や血痰、
チアノーゼ(唇や爪が紫色になる) 運動失調、意識障害
○処置
ただちに下降する。特に重傷の場合は速やかに下山し病院に収容する。この際患者を
歩かせてはならない、担架でなどで搬送すること。ヘリコプターを要請する。
軽症で山中で対処する方法は、腹式呼吸を行う。頭痛の場合は頭痛薬を飲む。
頭痛薬は最低2種類以上のメーカーのものを携帯する。時と場合で効く・効かないの
種類があるので
□予防
・ゆっくりと時間を掛けて登る
・脱水症を防ぐ(1日3g以上飲む)
・炭水化物を多く含んだ食べ物を多くとる
・過労を避ける |
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