◇CO2で稼ぐ中国
先進国が途上国で二酸化炭素(CO2)などの削減事業に投資し、見返りに排出権を得る「クリーン開発メカニズム(CDM)」。中国は大排出国だが、CDMを排出削減と資金獲得の打ち出の小づちに使っている。
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「なるほど、天から金が降ってくるようなものだ」
今月4日、中国陝西省西安市のゴミ処理業「陝西省中建実業」の会議室。石宝峰社長(63)がひざをたたいた。議題は、焼却場の余熱を有効活用する発電所の建設計画。CO2を削減するCDM事業として、先進国が建設資金を貸してくれるし、排出権の売却で、返済資金と利益も得られる。「CO2が金になる? そんなうまい話があるのか」。陝西工業技術研究院の提案を石社長ははじめ疑ったが、この日の担当者の説明に納得した。
04年に中国でCDMをまとめた三菱商事の担当者も、いぶかる中国側を「出世払いみたいなもの」と何度も説明して口説き落とした。しかし、今やCDMで生まれた排出権の半分が「中国産」。中国にはエネルギー効率の悪い工場が多く、改善しやすいためだ。他の途上国は「チャイナ開発メカニズムだ」と皮肉る。
山西省臨汾市の民間発電所建設現場を6日、日本の投資家らが訪れた。近くの製鉄所が出す高炉ガスを捨てずに燃やして発電し、CDM認定を受ける計画の説明を受けた。数年後には年間35万トンの排出権が生まれる見通しだ。日本の環境関連企業「PEAR」のCDM担当、佐々木一雄さん(57)は「巨額資金が武器の欧州勢が、よく気付かなかったものだ」と漏らした。中国では05年ごろにCDMブームが到来、数十万トン規模の有力案件は、ほぼ買い手が決まっている。
日揮や丸紅は05年、共同で計4000万トンの排出権を得られる世界最大級のCDMを中国でまとめた。日本企業に250億~300億円で転売する方針だが、売り上げの大半は中国側への支払いに消え、「赤字にならない程度」(日揮幹部)という。
一方で中国は、排出権価格が1トン8ユーロを下回らないよう事業者を指導し、最大の売り手の強みを生かして価格維持を図っている。
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「我々の将来を約束するものだ」。11月26日、仏原子力大手アレバのロベルジョン会長は喜びを語った。サルコジ大統領まで繰り出して、原発2基など約80億ユーロ(約1兆2800億円)の契約を中国から受注したからだ。7月には、東芝傘下の米ウエスチングハウスも4基を受注した。
温暖化対策として、日本がCDMの対象に認めるよう主張する原発の主要市場も中国だ。20年までに7兆円の巨費を投じて30基程度を建設する計画だが、溶接など中国への技術移転が前提で、「技術だけ取られて『後は国産』ということにならないか」。日本原子力産業協会の服部拓也理事長は不安を隠さない。
中国のしたたかさが、温暖化ビジネスの現場で存在感を増し続けている。【温暖化問題取材班】=つづく
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毎日新聞 2007年12月17日 東京朝刊