◇保険モデルが破綻
地球温暖化に伴う異常気象の頻発で、保険会社は多額の保険金支払いを迫られるようになった。対応を誤れば破産しかねないが、災害拡大を逆手に取った利益追求の動きも活発だ。
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「地球温暖化研究グループ」。科学系研究機関のような名称の部署が11月、東京海上日動火災保険のシンクタンクに誕生した。東京大との共同研究で、自然災害の発生地域や規模を予測する。「温暖化が保険業界に与えるリスクの判断材料にしたい」と、隅修三社長(60)は説明する。
スイス再保険によると、ハリケーンなど自然災害を中心とした世界の保険金支払額は70年代の年間平均29億ドルから00年代の同304億ドルに急増した。温暖化で今後も自然災害は増えると予想される。全米最大の年金運用機関「カルパース」は4月、温暖化がもたらす経営リスクの開示を米大手保険会社2社に要請した。
保険料算定に欠かせないのが災害リスクを評価する計算モデルだ。過去の被害統計や対象地域の建築習慣など多角的分析が必要で、「RMS」社など米3社が市場を独占する。東京海上もRMSのモデルを利用していた。だが、異常気象の頻発で過去の統計頼みは通らず、モデルも破綻(はたん)しかけている。05年8月に米フロリダ州に上陸したハリケーン「カトリーナ」の保険金支払額は過去最高の約663億ドルに達したが、襲来時に3社が算出した被害推定額は半分以下の200億~300億ドルだった。
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新たなモデルづくりに乗り出したのが、京都大や米コロラド大など20機関の研究者たちだ。独自モデルを作成、2月に公開した。各国の研究者の意見やデータを反映し、精度を上げる。
狙いの一つが、保険が定着していないアジアだ。世界銀行担当者は「モデルを整備して保険会社の参入を図れば、災害復興も進めやすい」という。金余りの金融機関にとって、アジア市場は垂涎(すいぜん)の的でもある。
今月3日、京都大で開かれた大災害保険の国際会議に参加した英保険会社幹部は「風水害が多いアジアは有望市場だ。産学協力で新しいモデルができれば、開拓できる」と打ち明ける。
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温暖化に対応する金融商品の登場も相次ぐ。有望株が「CAT(カタストロフィー)債券」だ。証券会社などが、投資家から集めた資金を元手に大災害時に数百億円の保険金を支払う契約を企業と結ぶ。災害は景気と関係なく、投資家は運用リスクの分散を図れる。06年の発行額は前年比2・4倍の47億ドル。
ある機関投資家は「カトリーナ後、投資家を逃がさないようにと証券会社などが利回りを上げ、うまみも増した」と語る。
スイスの証券大手UBSは5月、米国の気温が上がれば利回りが良くなる債券を発行した。温暖化が進むほど投資家はもうかる。
国連の温暖化予測作業に参加した日本人研究者は言う。「温暖化予測が精緻(せいち)化すれば、さらに新たな金融商品が生まれるだろう」【温暖化問題取材班】=つづく
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毎日新聞 2007年12月16日 東京朝刊