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暖かな破局:第1部・温暖化の政治経済学/2 IPCC報告書・作成の舞台裏

 ◇国益で動く科学者

 地球温暖化を巡り、「科学の衣」をまとった主導権争いが起きている。その舞台が、ノーベル平和賞を受賞した国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)だ。IPCCは世界の研究者約4000人が参加する専門機関で1988年に設立された。温暖化問題で最高の権威を持ち、その報告書は、世界に行動を促す役割を果たしてきた。

 今年まとまった4次報告書に「Keidanren」の文字が躍る。温室効果ガスの削減目標を業界ごとに決める日本経団連の「自主行動計画制度」が、温暖化対策として紹介された。罰則規定がなく、欧米の研究者から実効性を疑問視されていた。功労者は、経済産業省の推薦を受けて執筆メンバーとなった山口光恒・東京大特任教授だ。

 山口教授は執筆責任者のデニス・ターパク氏=米国=と、会合の度にホテルでワイングラスを傾けながら、第三者が点検する仕組みとその有効性を説明。報告書記載を納得させた。

 経産省や経団連は、企業の温室効果ガス排出枠を国が決める欧州流の排出権取引には反対だ。「自主行動計画がIPCCに評価されないと、導入圧力が強まる」(山口教授)と考えていた。

 経産省の担当参事官だった関成孝・塩ビ工業・環境協会専務理事は「影響力を及ぼすには、執筆段階から関与しないといけない」と指摘するが、4次報告書全体で、日本人執筆・査読者は1割未満の30人。「日本の研究実績や経済力に比べれば少ない」(政府関係者)

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 IPCC報告書が重みを持つのは、排出大国の米国でも同じだ。

 「眠れず、食事ものどを通らない、つらい1年だった」。米ローレンス・リバモア国立研究所=カリフォルニア州=のベンジャミン・サンター博士(52)は、こう振り返った。

 IPCCは95年、人間活動が温暖化に関係していると警告した2次報告書を発表。これを契機に、京都議定書が採択された。

 博士は、報告書の責任執筆者だった。ところが翌夏、反発した石油企業などから「作成過程に疑問あり」と電話が頻繁にかかるようになる。研究所の予算削減に動いた下院議員もいて、博士はアルプス山脈に逃避行した。その後、IPCCへの参加を断っている。

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 4次報告書は「20世紀半ば以降の気温上昇は人間活動による影響がある可能性がかなり高い(very likely)」とした。かなり高いは、90~95%の確率と定義された。実は、前回の報告書でも「かなり高い」との分類があり、確率は90~99%と定義。同じ表現でも、確率はなぜ下がったのか。

 排出大国の中国は「かなり高い」という表現に反対だった。気温上昇評価を担当した共同議長は米国のスーザン・ソロモン氏と中国の秦大河氏。ソロモン氏は「見直しは科学的に妥当」と説明したが、ある執筆者は「中国人が共同議長にいれば配慮を求められる」と語る。【温暖化問題取材班】=つづく

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毎日新聞 2007年12月12日 東京朝刊

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