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三菱事故判決
- 2007/12/15
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安全と誠実こそブランド
断罪されたのは、むしろ企業体質そのものだと受け止めるべきだろう。横浜市瀬谷区で三菱自動車製大型車のタイヤ脱落により母子三人が死傷した事故で、横浜地裁は元部長ら二人に有罪(禁固一年六月、執行猶予三年)の判決を言い渡した。関連する刑事裁判は三つ並行して続いているが、中でも今回は事故原因について真正面から争われた。その判決が「事故はリコールを回避する業務態勢の中から発生した」とはっきり言及した意味は重い。
襟を正すべきは同社に限ったことではない。ガス湯沸かし器の欠陥放置による死亡事故をはじめ、最近は食品メーカーの偽装が相次いでいる。利潤や効率を追い求めるのは企業として当然の営みだが、どの事案もブランドイメージを優先するあまり、安全を軽視する姿勢が共通して透けて見える。判決は、ブランドを守ることの真の意味を広く企業に問うた形にもなったのではないか。
母子死傷事故は、三菱自による一連の欠陥隠し問題の発端になった。重さ百三十㌔のタイヤの直撃を受けて亡くなったのは、幼い子供を連れてたまたま通り掛かった二十九歳の母親である。何とも痛ましい事件だった。
それだけでも遺族の心中は察するに余りあるのに、その後も三菱自の対応に翻弄(ほんろう)される展開になったことがやりきれない。事故から二年後に三菱ふそうトラック・バス(事故後に三菱自から分社)は欠陥を認め、当時の社長が謝罪した。ところが三件で刑事訴追を受けると、被告たちは口をそろえて無罪主張に転じた。
被害者への謝罪と、訴訟上の姿勢とは別次元、という理屈は理解できる。そうだとしても、事故後の初期対応から公判での姿勢を通じて最終消費者である私たちが注目するのは、企業としての誠実さという部分である。その意味でも判決は象徴的だった。
被告となったのは、品質管理部長などの立場にいた個人である。欠陥を放置し対策を怠ったとして、刑法の業務上過失致死傷罪に問われた。判決は「欠陥の把握は可能だった。放置すれば人に危害が及ぶことも容易に予測できた」と認定し、二人を有罪とした。そのうえで、あえて企業体質にまで踏み込んだのである。国に開示する不具合情報と隠ぺいする情報とを二重管理していたことに言及し、隠ぺいが組織的であったことを強く示唆した。
ブランドを守り抜くために私たち消費者の安全が脅かされるのではたまらない。やがては致命傷となって企業の側に跳ね返ってくることも自明である。長い時間を経て染みついたであろう企業体質を根本から改めるのは難しいだろう。だが、本質的なところでブランドが傷ついてしまうとしたら、回復はもっと難しいはずだ。
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