「少しの時間だけ、子どもをみてほしい」という子育て世代と、「預かってもいい」人をつなぐファミリーサポートセンター(略称ファミサポ)。登録会員数は昨年、全国で33万人を超えたが、「聞いたことがない」という人も多い。どんな制度なのだろうか。【村元展也、反橋希美】
■当事者同士で
ファミサポは94年、国の働く女性の子育て支援として始まり、全国480の市区町村に設置されている(07年3月現在)。
社会福祉協議会などに委託されているが、基本的なシステムは全国共通だ。事務局(アドバイザー)が、登録された「預ける人」(依頼会員)と「預かる人」(提供会員)の橋渡しをする。その後の活動は、規定の料金(1時間500~900円程度)の受け渡しも含め、当事者同士に任される。万一の事故などに備え、保険も適用される。
多くの場合、提供会員は3日間程度の研修会に出席する必要がある。また、依頼と提供の両方に登録することもできる(両方会員)。
■遅番でも「安心」
実際の活動はどんなものなのか。
「久しぶりだね。おうちで、ばばも待ってるよ」。午後7時、東京都中野区の北田利英さん(68)は、近くに住む岡本果莉(かれん)ちゃん(1)を保育園まで迎えに行く。「はい、あーん」。北田さん宅で、果莉ちゃんは慣れた様子で焼きそば、カボチャの煮物などの夕食を食べさせてもらい満足げ。台所から妻の敦子さん(64)が「トマトが好きなんだよね」と笑う。
母明子さん(32)が北田さん宅に迎えに来るのは、午後8時過ぎ。大学病院の外来で看護師を務める明子さんは、月に4回ほど遅番がある。気軽に迎えに来てもらえるほど実家の距離は近くなく、夫の帰りも遅い。育児休暇中、口コミでファミサポを知り申し込んだ。「子育てに慣れた人が接してくれて安心」と話す。
一方、北田さんは定年退職後の約8年前、何か社会貢献をと考え、会員登録した。もともと隣家に3~9歳の孫3人が住み、子どもの世話には慣れていた。先に敦子さんが提供会員として活動しており「預かった子どもと接すると、心が和んだ」という。今では夫婦でほぼ毎日、1~2人を預かるといい「お迎えの時、『じじ』と呼んで抱きついてくれる瞬間はたまりません」と目を細める。
■少ない提供会員
厚生労働省によると、06年度の会員数は全国で33万7562人で6年前の7倍、活動件数は147万4966件で同8倍になった。また、ファミサポ制度を支援する「財団法人女性労働協会」(東京)の全国調査(05年)で、活動内容は「保育所・幼稚園、学童保育の迎え、帰宅後の預かり」が50%を占めた。同協会は「保育の『すき間』を埋めるニーズは今後も高まる」とみる。
課題もある。会員のうち、依頼会員が66%を占め、提供会員が不足。中野区ファミリーサポートセンターも会員数1411人(昨年度)のうち、提供会員は248人で2割に満たない。松本洋子所長は「預かる方も異世代と交流ができるというメリットがある。一人でも多くの人に地域の子育てを担ってもらいたい」と話す。
◇病児を在宅で保育、「緊急サポーター」も
国は05年度から、仕事を持つ親に代わって病気の子どもを在宅で預かる「緊急サポートネットワーク事業」も始めている。急な残業などにも対応し、料金は平均1時間1200円。現在、40都道府県で設置されている。
中野区の場合、区社会福祉協議会が実施しており、今年10月現在で利用会員が176人、病児を預かる「緊急保育サポーター」が56人登録している。「病気の子どもを預けるのは怖い」という不安解消のため、同区では看護師資格を持つコーディネーターが利用者宅を訪問。当日の早朝に依頼しても即日対応するなどのサービスが受け、月平均約20件の利用がある。
全国のファミリーサポートセンターと緊急サポートネットワークの実施団体は、「女性労働協会」のホームページ(http://www.jaaww.or.jp/)で検索できる。
毎日新聞 2007年12月16日 東京朝刊