8人が死傷し、容疑者が自殺する衝撃的な結末を迎えた、長崎県佐世保市の散弾銃乱射事件。同県公安委員会の許可を受けた散弾銃が凶器となったことが、さらに波紋を広げている。銃所持に厳しい規制を定めた銃刀法が、結果的に機能しなかったと言えるからだ。許可銃による事件や誤射が全国でも後を絶たない中、識者からは抜本的な見直し論も出ており、今後議論を呼ぶのは必至だ。

 散弾銃や空気銃などの所持は、狩猟と有害鳥獣駆除、スポーツの目的に限って認められる。警察庁によると、2006年末時点で、許可を受けた猟銃は約30万5100丁、空気銃は約3万3900丁。長崎県内の散弾銃は1918丁ある。

 所持するには医師の診断書を添えて居住地の警察署に申請し、都道府県公安委員会の許可を受ける。警察署による身辺調査も行われた上で、講習や筆記、実技の試験を経て許可証が交付される。

 欠格事由にはアルコール依存症、住所不定者などがあり、許可を得ても取り消されることがある。06年中には精神障害などの理由で194丁の許可が取り消された。

   ■   ■   

 佐世保事件の馬込政義容疑者(37)は02年7月から今年9月までの間に、散弾銃3丁と空気銃1丁の許可を得ていた。3丁は3年ごとの更新を受けており、その際に県警の担当者と20分程度の面接もしていた。

 だが、ある地域住民は「(馬込容疑者は)『精神的に不安定そうなのに銃の所持を許していいのか』と警察に訴えたが相手にされなかった」と悔しがる。欠格事由には「他人の生命、財産、公共の安全を害する恐れがあると認めるに足る」ともある。凶行の手段を事前に奪う機会は、本当になかったのか。

 県警は15日の会見で「適正な調査の上での許可だった」(立山秀夫・佐世保署長)と主張。許可担当の道脇茂・生活環境課長も「情報があれば調査するが、(精神的に)怪しいというだけでの許可取り消しは困難。要件を満たせば認めざるを得ない」と説明した。

   ■   ■   

 ある捜査関係者は「警察は少ない人員で調査しており、じっくり身辺調査するのは現実的に難しい。書類だけに頼る面もある」と指摘する。

 宇都宮市で02年に起きた散弾銃による隣人殺傷事件では、県公安委員会の許可の是非が問題化し、宇都宮地裁は今年5月、県や警察の過失を認める判決を言い渡した。

 猟銃による発砲事件は今年1‐11月で7件。昨年同時期の3件を大幅に上回る。今月も高知県津野町で、男が散弾銃で隣人の親子を殺傷する事件が起きたばかり。日本大法科大学院の板倉宏教授(刑法)は、「(今回は)日ごろ身近に見ている地域住民からおかしな言動の情報があったのだから、もっと慎重に調べるべきだったのではないか。事件を機に、銃許可のあり方自体も見直す必要がある」と指摘している。

■再発防止策を検討へ 福田首相

 福田康夫首相は15日午後、長崎県佐世保市の散弾銃乱射事件について「外国と同じようになったのかと心配だ。銃の規制とかそういうことになっていいのかどうか。何か良い方法がないのか考えないといけない」と述べ、同種事件の防止策を検討する考えを示した。

 都内で記者団に対し述べた。

=2007/12/16付 西日本新聞朝刊=