勘助は晴信のことを最初に出会った時から『ただ者ではない』と感じていました。内に秘めた復しゅう心を見透かされて『大望がなければ、恨みを果たしたとて何になろう』と言われてしまった。年下の晴信に言われたことで、ものすごく悔しいんだけど、その言葉は勘助の胸に突き刺さりましたね。ミツのことを思うたびに、恨みにこだわる自分がいる。その一方で、それを乗り越えなければ大きなことは成し遂げられないという思い。両方が常にせめぎ合っていたんです。 そんな中で晴信と再会したのが海ノ口城でした。しかし、ここで勘助は晴信から『偽軍師、討ち取ったり』と、首を斬ることなく討ち取られてしまった。まるで生きながら葬られたようなもので、これまで以上に晴信の器の大きさに圧倒された出来事でしたね。それ以来、『あの男は何なんだ、あの男が気になる』という思いが強烈に募っていくばかり。勘助にとって大きな転換点になりました。 勘助は“ミツの死”によって武田に深く大きな恨みを抱いたわけですが、その激しいマイナスのパワーが、逆に武田晴信(信玄)との密度の濃い出会いにもなっていったんですね。
信虎追放後の勘助は、『何とかして晴信に近づきたい』という思いでいっぱいでした。すでに晴信は勘助の中で、大きな存在になっていましたから。しかし、その術がない。『いくら兵法を学んだところで、俺にチャンスの到来はないのか』と、燃える炎のような思いをくすぶらせていた。そこへ“飛んで火に入る…”じゃないですが(笑)、青木大膳が情報をもたらしてくれたことで、それを利用して仕官がかなったわけです。 もともと勘助は、晴信が自分に関心を持ってくれていることを、ひしひしと感じていたはずです。『どうも俺のことを買っているようだ』とね(笑)。お互いに吸引し合う引力のようなものがあった。しかし、いざ対面して一気に知行の倍増という破格の昇進を言い渡されると、また不可解なわけですよ(笑)。 もちろん勘助は『自分には実力がある。ただ発揮する場がなかっただけだ』という強烈な自負を持った男ではあります。経験もある、諸国を遍歴していろんな情報もあるとね。しかし、晴信がそれ以上の期待値を寄せていることに気づいてしまった。だから、仕官したところで、晴信がなおさら気になる存在になっていくんです。 それにしても、自分が求められているところで自分の才を発揮できるというのは幸せなことですよね。これからの勘助は、志高く己の生きる道、大望をより考えていくようになっていくので、演じ方も少しずつ変えていこうと思っています。若いころの直情径行的でストレートな勘助から、軍師としての含み、神色自若(しんしょくじじゃく)*というようなニュアンスも加味させた勘助像になっていくので、その過程を楽しんでいただけたらいいですね。 *非常のことに出会ってもびくともしない様。