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搬送拒否妊婦死亡 遺族が県立医大で訴え

2007年12月16日

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会場となった講義室は医学生らでほぼ満席となった=橿原市四条町の県立医科大学で

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シンポジウム終了後、参加者の質問に答える高崎憲治さん=橿原市四条町の県立医科大学で

  ◆「説明不足 訴えの要因」

   ◎医者の卵ら聞き入る

 昨年8月に大淀町の町立大淀病院で妊婦が意識不明となり、19病院に転院の受け入れを断られた末、出産後に亡くなった問題。遺族は担当医師らに損害賠償を求める訴訟を起こし、ネット掲示板には遺族を非難する医師と名乗る書き込みが相次いだ。このままでは医者と患者の気持ちが離れていってしまうーーそんな危機感を持った県立医科大学の学生が15日、同大に遺族を招きシンポジウムを開いた。遺族の話を直接聞き、患者に求められる医師像について考えた。
 (石田貴子)

  ◎医学生「患者さんと向き合える医者に」

 亡くなった高崎実香さん(当時32)の夫の晋輔さん(25)と義父の憲治さん(53)、訴訟担当の弁護士を講師に、同大で学ぶ医師、看護師の卵ら約100人が参加した。

 主催した有志学生による「患者の気持ちがわかる医療者になる会」の発起人は、4年生の栗崎基さん(31)。今年4月に市民団体が開いたシンポジウムで高崎さんの話を聞き、この問題に関心を持った。インターネットで調べると、医師と称して掲示板やブログで高崎さんを非難する内容の書き込みを見つけ、困惑した。「医者と患者が協力しなければ、病気は治せないのに」

 栗崎さんは、「もう少し早く別の病院へ搬送されれば助かったはず」と今年5月に損害賠償請求訴訟を起こした高崎さんたちに医療を良くしていきたいとの思いがあることも知った。今回の問題の医療ミスの有無を探るのではなく、いずれ当事者になる者として、遺族の話を直接聞く機会が必要だと考えた。

 シンポは非公開で、まず高崎さん親子が昨年8月の問題発生から現在までの経緯を説明。晋輔さんは「たとえ手術が失敗してもベストが尽くされていれば、それだけで訴える人はいない。医師側の説明が足りないことが大きな原因」などと話した。病院は問題発覚直後の会見で「結果的に見ればミスだった」としたものの、昨年11月に遺族が経過説明を求め文書で申し入れても、受け入れられなかったという。

 学生たちは「問題の説明をめぐる医者と患者側の意識のずれはどこから生じるのか」などと質問。弁護士は「遺族は事実を知りたいだけなのに、説明を求められた側が『医療過誤を非難されている』と、すぐ壁を作ってしまうところにあるのでは」と答えた。

 また、「自信を持って医療行為のできるかっこいい医師になってほしい」という晋輔さんの発言に、数人の学生が「僕らが考えるかっこいい医師」として、「人間同士として患者さんと向き合える医師」「つらいときに共感してくれる医師」などと意見を述べた。

 シンポの終了後、30分たっても、憲治さんの周りには質問を投げかける学生の輪が解けなかった。実行委員で5年生の久保政之さん(27)は「『(技術だけが優れた)神の手になるより、誰の手でも握れる優しい手になってください』という言葉に感銘を受けた」。晋輔さんは「患者が本当に求める医師像が伝わったと思う。光が見えました」と話した。

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