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科学研究不正:科学者の良心とは…不正対策で議論--日本分子生物学会がシンポ

 日本分子生物学会が13日、横浜市で開催した年次総会で「今こそ示そう科学者の良心~みんなで考える科学的不正問題」と題するシンポジウムを開いた。国内外で相次いだデータ捏造(ねつぞう)などを受け、共同研究者の責任や不正を監視する第三者機関の設置を巡り、活発な議論が交わされた。【西川拓】

 ◆阪大の捏造きっかけ

 学会は昨年、大阪大で発覚したデータ捏造事件をきっかけに研究倫理委員会を設置した。事件で問題となった論文を再チェックするとともに、若手研究者の倫理教育も手がけている。今回のシンポジウムは、研究倫理委員会の若手教育ワーキンググループが中心となり、初めて企画した。

 倫理委員長の柳田充弘・京都大特任教授、菱山豊・文部科学省ライフサイエンス課長、村松秀・NHK専任ディレクターがそれぞれの立場から講演。40代以下の比較的若い研究室主宰者6人がパネリストとなり、不正を生みやすい環境など現場の体験を話した。

 ◆告発窓口知らず

 議論が沸いたのは、フロアの研究者が米国厚生省公衆衛生庁に設置されている監視機関「研究公正局(ORI)」を例に挙げ、「日本にも同様の機関が必要ではないか」と問題提起したときだ。

 この研究者は、日本学術会議が06年に策定した「科学者の行動規範」や多くの研究機関に置かれている不正告発窓口の存在が研究者自身にほとんど知られていないことを明らかにし、「(規範を作るだけで)あまりにも現場に丸投げではないか」と述べた。

 これに対し、菱山課長は「研究の中身ややり方に、行政がどこまで踏み込むかは非常に難しい問題だ。行政が前面に出るのは、研究者側にとって、いいことにはならないと思う」と答えた。また、不正監視機関の設置についても「捜査権もなく不正の立証はかなり難しい。法的には、立証責任は『不正だ』と言った側にあり、現実的に厳しい」との考えを示した。

 ◆どうなる指導者責任

 不正を見抜けなかった場合の共同研究者や指導者の責任については、参加者の間で議論が分かれた。

 画期的な新型万能細胞「iPS細胞」で注目を集めている山中伸弥・京都大教授は「最初にiPS細胞を発表したのは、韓国・ソウル大の捏造事件の直後で、もし、自分たちの研究がうそだったらと考えると怖かった。だが、不正を見抜けなかったとしたら、全面的に自分の責任だと思っていた」と心情を吐露した。

 また、上田泰己・理化学研究所チームリーダーも「指導者は、グループ全体の責任を取るということを前例としていかないと、不正の防止にはつながらない。責任著者は全体を把握していなければいけない。共同研究者は、役割分担や知りえた範囲に応じて責任を負うべきだ」と語った。

 一方、高橋考太・久留米大教授は「学生が不正をした場合と、一人前の研究者である博士号取得者がした場合とでは、指導者の責任の重さは違うのではないか」という見解を示した。

 このほか、討論では「研究責任者になるまでに、不正への対処や倫理問題の教育がまったくない。最初に指導を受けた人の影響が非常に大きい」「他人のアイデアを尊重し、自分のアイデアに誇りを持つという前向きな教育も必要だ」などの意見が出た。

 座長の中山敬一・九州大教授は「まず、研究不正という問題が自分たちの中にあることを知らせ、それを公に議論する雰囲気を作りたい」と話している。

 ◇競争的環境が誘発--NPO代表・医師榎木英介さん

 研究者の問題に詳しいNPO「サイエンス・コミュニケーション」代表理事、神戸大付属病院医師の榎木英介さん(36)に聞いた。

     ◇

 不正行為は昔からあった。劇的に増えたわけではないと思うが、最近の競争的な研究環境が誘発しているといわれる。研究者として生き残るためには、論文という研究成果を出すことが強く求められるからだ。

 業績の評価方法として、論文が掲載された雑誌によって点数化するポイント制をとる大学がある。医学系なら「ネイチャー」「セル」「サイエンス」の点数が高い。ポイントを稼ぐには格が高い雑誌に載ることが重要で、論文の内容はあまり考慮されない。研究分野の細分化が進み、内容を評価しにくいのだろうが、こうした不自然な評価方法はやめた方がいい。

 医学や生命科学の分野では特に、データを捏造したり改ざんする行為が、結果的に人々の健康や安全に影響を与える可能性がある。研究は出世のためだけでなく、社会とつながっていることを研究者一人一人が理解することが、不正の抑止力になると思う。

 そのためには、研究者を社会の側に引っ張り出すしかない。市民との交流の場に参加することで、研究者が自分の立ち位置を相対的に見直すことができるだろう。科学の社会貢献の方法は産学連携だけではない。社会のニーズに基づいた研究をしていく「社学連携」にも目を向けていくべきだ。【聞き手・下桐実雅子】

毎日新聞 2007年12月16日 東京朝刊

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