本当の敵と、当座の味方
ヴェネズエラでチャベスによる憲法改正が否決された。韓国で大統領選が迫っている。

反米左翼の大統領なら政治的自由を制限しても許容する?
金大中、盧武鉉とこれだけ急速に社会が動いた韓国で、また次も革新の大統領を選び出すべきなのか?・・・・・・激動する政治状況のなかでの選択は、安易な政党帰属party affiliationを許さない。自分の頭で考えなければならないだろう。

日本の古い「革新系」の信条を持った人たちが、ヴェネズエラや韓国のような針路なき政治情勢のもとで、「指導部」から与えられた公式見解なしに、どのような自律的判断が出来るのか、少し疑問だ。安易な政党帰属party affiliationなど無いほうが、その人の政治的判断力と政治的自律は、鍛えられるのではないだろうか。

                 ***

①金光翔、「〈佐藤優現象〉批判」、雑誌「インパクション」(160号・2007年11月)

この変化球を、どう打ち返すべきか・・・・・・。

左右両翼の総合雑誌をまたにかけ、論壇の寵児となった佐藤優。
本論は、その佐藤個人への批判ではなく、その佐藤を使いつづける「リベラル・左派」の雑誌、具体的には『世界』や『週刊金曜日』への批判である。その批判は、間接的に、斉藤貴男や魚住昭のような「左派ジャーナリスト」、山口二郎や杉田敦、和田春樹といった「リベラルの凡庸な政治学者」にも向けられる。

本論によると、佐藤優は、右派メディアでは民族排斥的な「本音」を語り、左派メディアでは読者に適合させる形で本音をぼかして、「下らない処世術」を使い分けているという。

ではなぜ左派メディアは、それでも佐藤を使い続けるのか?
本論によれば、左派メディアは、自力では「改憲の流れを止めることはできないから、改憲後に備えてこれまでのリベラル・左派の主張を改編して現実的な勢力となっておくために、すなわちリベラル・左派の生き残りのために、佐藤を擁護」しているという。したがって、〈佐藤優現象〉とは、「改憲後の国家体制に適合的な形に(すなわち改憲後も生き長らえるように)、リベラル・左派が再編成されていくプロセス」と要約される。以上が本論の趣旨である。

一読後の感想として、この論文の言葉使い、その論理の運びからして、駒場のときの△○派のアジびらの論理を思い出した。悪の帝国ブッシュと追随する日本政府、まではまあ良いのだが、イラク戦争を支援する日共、小泉政権を黙認する学生自治会、右翼論壇の岩波書店、断固フンサーイ!という論理。

この類の論理は、日本の、韓国の、あるいはアジアの政治的未成熟さを表すメルクマールだ。

佐藤優に書かせる岩波書店はすでに改憲を見こしたメディアだという論理は、共産党は議会制民主主義を認めるからすでにブルジョア政党だとレッテルをはる△○派と同じ論理だ。日本でも韓国でも、結局、二人集まれば三つの党派をつくっているわけだ。本来の敵と当座の見方が区別できないで、結局、団結できないのだ。現下の飢えを我慢する自制心と、そうすれば春に大きな収穫があるはずだという予測能力を持てないで、打倒すべき相手の前で、惨めな内ゲバをくり返している。この批判は、「社民党は2、3の選挙区で民主党と選挙協力するからすでに改憲派の政党だ」とする共産党にたいしても無縁ではないと思う。

金光翔氏の論文と対照的だったのが、以下だ。

②姜尚中、小森陽一、『戦後日本は戦争をしてきた』、角川oneテーマ21、2007年

座談会やってすぐ本に仕立てて売り出すという、最近の駒場系の先生たちの商戦略はどうかと思うし、かつ小森先生の発言はいささか勇み足もあるように思うが、本書の内容について私は基本的に同意できる。

興味深いのは、姜先生の発言だ。
安倍政権に見られるように、「美しい国」(美国)をめざして、普通の国として自立化しようとすればするほどアメリカ化に陥ってしまうブラックユーモアに、右翼の隘路がある。そこで姜先生は、大平、小渕といった「通常の保守」の病死を惜しみながら、「私は、護憲という立場ならば、保守の中の「健全」にウイングを広げるべきだと思います」(p188)という。つまり、姜先生がこの本で公言している「一縷の望み」は、リベラルな保守の再生となる。

「(安倍政権の)化けの皮が剥がれたいま、大切なことは、「リベラルな保守」の再生をはかることでなければならない。石橋湛山クラスのリベラルな「保守政治家」が登場しなければ、日本は救いようがない。・・・・・・「リベラルな保守」「開かれた保守」の再生が必要なのではないか。「リベラルな保守」「開かれた保守」のアジア的な連帯、これこそ、日本の進むべき道ではないだろうか。」(p236)

金光翔氏は、「リベラル保守」とも手を組めという姜先生をも、「改憲後の生き残りのための右派への擦り寄り」とするだろうか。私は、そこにもっと誠実な動機を見るのだが。

金光翔氏の主張は、左派メディアは改憲を見通して自らの生き残り戦術を確保していると批判するが、その実、自らの護憲のための建設的提案は何も示せていない。護憲派が、自らのサークルのなかで教条主義的に結集していくのならば、それこそ展望は皆無だろう。社共の潜在的支持層は固定化している。護憲のために肝要なのは、「リベラルな保守」がどう動くか、であろうと思う。したがって、私は姜先生の認識と提案に、同意したいと思う。

また、北朝鮮にたいする態度についても、姜先生の意見は説得的に聞こえる。
世襲社会主義という北朝鮮の異様な体制を批判すること、自由のウイルスを北朝鮮にバラまくしかないということ、北朝鮮は過酷にも資本主義という「ゴルゴダの丘」を登らなければならないこと、そして、だからこそ韓国が支援しなければならないということ、である。
by akai1127ohi | 2007-12-11 21:06 | 政治理論 | Trackback | Comments(8)
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Commented by 元S402 at 2007-12-12 01:32 x
このような形でお祝いするのは恐縮ではありますが、お誕生日おめでとうございます。akai1127ohiさんにとって素晴らしい一年となりますよう、お祈りいたします。
また、最近は精力的にブログも更新されているようで、私も楽しく拝見しております。ネタも硬軟織り交ぜてらっしゃて、リベラル感(あんましリベラルの正しい意味知りませんけど)が出ていてよろしいと思います(皮肉ではなく)。
しかし、尾崎はやりすぎでは…。気持ちは分かるんすけど、読んでてなんか照れちゃいましたよ。でも、akai1127ohiさんも、尾崎豊をちゃんと通って来てるというところは非常にうれしく思いました。尾崎には右も左もありませんね!
今週末は寮に伺います。では、また。
Commented by akai1127ohi at 2007-12-12 21:21 x
どうも恐縮です。
「27歳の地図」・・・・・・ちょっとナルシズム過多だったかな。
でも、かっこいいっしょ!?エヘヘ・・・。

さておき、尾崎はそれはもうきちんと通過してますよ。それこそ高校生のときは。最近は尾崎をカラオケで歌うとKYといわれるような、生きづらい世の中になってしまいましたね。右も左もないというと、河島英吾もかなあ。産経と朝日、長渕と吉田拓郎と、生き様の方向性は違っても、ふしぎと合流する地点があるもんですね。
では今週末に。
Commented by at 2007-12-13 19:52 x
「この類の論理は、日本の、韓国の、あるいはアジアの政治的未成熟さを表すメルクマールだ。」

おっしゃるとおりだと思います。金光氏の指摘と正反対に、むしろ、左派メディアの柔軟性のなさが、佐藤優が受容される基盤をつくっているとみています。

ベネズエラですが、結局、油の出る国の民主主義は停滞するのかな。原油→生産的投資の停滞→再分配とポピュリズム政治→政治に対するチェック機能が停滞。

アジテーションはもうたくさんだから、まじめに現実を分析しよう。『インパクション』誌をみていると、大学の優等生左翼のようで、嫌気がさします。
Commented by 豊島セバスチャン花子 at 2007-12-14 11:20 x
率直に言って、論考の紹介(も兼ねていると思うが)として公平さに欠くと思う。取捨選択の政治が「本当の敵と当座の味方」という主題に先行していたと言えるとするなら、その政治の質が問われていると思う。
第二に、特定政治党派の名を想起させと安易に論敵をレッテル貼りして放逐するというやり口は、まさに特定政治党派の負の遺産をかえって行為遂行的に継承・反復していると考えられ、リベラルな政治学徒としての君自身の名折れだと思う。
第三に、「本当の敵と当面の味方」なるシェーマは歴史上反復かつ失敗している以上、それらに触れず「現下の飢えを我慢する自制心」のみを要求するのはそれこそドコゾの党派を彷彿とさせ、政治学徒として単に「未成熟」である。
第四に、佐藤優現象が、事実上「無知の避難所」(スピノザ)として機能していないかどうかを、政治「学徒」としての君はまず判断しなければならないと思う。私の知る限り、君も尊敬しているであろうサイードは、この意味ではほとんど一切の妥協をしなかった人だと考える。
最後に、君の「本当の敵と当座の味方」という宣言が事実上「無知の避難所」として機能していないかどうか、再検討することをのぞむ。
Commented by 豊島セバスチャン花子 at 2007-12-14 11:41 x
追伸。
http://shutoken2007.blog88.fc2.com/
参考までに。
Commented by akai1127ohi at 2007-12-15 10:57 x
>kさん
コメントどうもです。
最近二ヶ月の読書の一端を見ても、「現実の分析」されているようですね。
私の方は最近は観念世界中心のことばかりに浸っている感があるので、そういうものを読もうかと思っています。手始めに『官邸主導』でも読もうかな、ってこれは行政学のテキストだな。
Commented by akai1127ohi at 2007-12-15 11:05 x
>豊島セバスチャン花子さん
手厳しいコメントいただきました。
どの方向に打ち返すことが求められているかわからず、とりあえずフルスイングしてみたんですが、、、。まず何より、論考紹介してもらってどうもです。

当該論考における論理や批判の仕方については、わたし自身としてやはり自分のものとはできないという気持ちがありますが、私の批判もまた言葉たらずだったかもしれません。スピノザの概念や言葉については今後の検討課題としたいと思います。
Commented by k at 2007-12-15 20:40 x
まあ、佐藤優に「思想」や政治を期待したり、その「思想」や政治で彼を評価するのは、お門違いでしょうね。佐藤の面白さとオリジナリティは、リアリズムと倫理主義と合理主義のかみ合わせにあります。 彼の思想や哲学に対するプラグマチックな構え方に、この特徴がよく出ていると思います。

世間的には彼を知識人と評価する向きが多いですが、むしろそうではなくて、どこまで行っても実践志向の人です。左派メディアが彼を使うとか使わないとか、彼を改憲問題に使えるか使えないかとか、そういう論点設定自体が誤っていると感じます。だから金さんの見立てには全く同意できません。

佐藤を批判するなら、佐藤の特徴そのものを丁寧に指摘して、彼を相対化すべきでしょう。「下らない処世術」とか「民族排斥」とかで一般化せずに。「佐藤の面白さとあんたが期待しているものはこう違うよ」と。その後の金さんと岩波、新潮の「紛争」は、下品だと思うけど。日本的なものをものすごい感じます。

『官邸主導』もいい本だけど、上杉隆は優れたジャーナリストだと思うよ。何でこんなソース持ってるんだろうと。
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