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【社会】

さいたま・残留孤児3世いじめ 甘い対応 暴行招く

2007年12月14日 13時55分

洗濯中に気づいた、切られた二男のシャツ=10日、さいたま市見沼区で

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 「粘着テープを張られて、目とか口とかふさがれたよ…。ひどいでしょう」。中国残留孤児二世の運転手(41)の一家4人が暮らす、さいたま市内の県営住宅。中学1年の二男(13)へのいじめについて、母親(38)が、たどたどしい日本語で懸命に訴えた。目には涙をためている。気づいたのは6月だった。学校側に訴えていったん治まったが再発。悪化する事態に「日本語がちゃんとできないから対応してくれないのか」と、学校側に不信感を募らせている。 (川越通信部・山口哲人)

 中国・湖南省出身の母親は、夫の後を追って十六年前に来日。二児を育てながらカーテン裁縫会社でミシンを走らせ、懸命に働いている。

 二男は、他者とのコミュニケーションがうまくできない。家では主に中国語で話すが、「おとなしい子だから、学校のこと話してくれない」と悩んでいる。器用に振る舞えない性格が心配で、入学直後の家庭訪問で担任に「この子を保護して」と頼み込んだ。だが六月下旬、学校から帰った二男の顔を見て驚いた。ほおが赤く腫れ上がっていたのだ。理由をしつこく尋ねると二男は「同級生にパンチされた」とこぼした。

 母親はすぐ学校に抗議した。加害生徒と保護者が謝罪に訪れ、いじめは治まったかにみえた。

 ところが、八月になるとまた体にあざが見られるようになった。学校側は九月に別の加害生徒を注意したが、いじめはエスカレート。消しゴムに「バカ」と書かれたり、シャープペンシルのしんを全部取られたりした。

 ある日、洗濯をしていると、シャツが切られていることに気づいた。

 夫と相談し、二男に転校を促したが「バス代がかかるから」と承諾しなかった。決して豊かとは言えない家庭の事情を気遣ってのことだった。

 そして今月五、六の両日、事件が起きた。学校の武道場で、同じ部活動の仲間三人から、粘着テープで目や口をふさがれ、手や腕をぐるぐる巻きにされたのだ。

 学校側は六日午後、両親に事情を説明し、加害生徒三人に部活動への参加を禁止した。だが、学校側の受け止め方は、あまりに軽い。取材に応じた校長は「全クラスに見守る態勢が浸透するよう指導する。年末の保護者会でも説明する」と話すのだが、これほどの暴力について「加害生徒は小学生が抜け切らないような子で、遊び半分のいじめ」と言うのである。

 母親によると、生徒指導の担当教諭は二男について「この子はいじめられそうなタイプ」と言ったという。心ない言葉に夫は「テープで縛られた揚げ句、先生からひどい言い方をされた。これはいじめじゃなく虐待だ」と憤りを隠さない。

 校長は「両親の話に耳を貸してきたつもりだった」と話すが、本紙が取材するまで、市教委などに一連のいじめを報告していなかった。

 文部科学省は昨年、いじめ自殺が問題化したことを受け、いじめの定義を変更。いじめられる側の視点を重視するようになった。学校からの報告は急増し、二〇〇六年度の全国の報告数は前年度の約六倍にも達したが、まだ改革が徹底していなかったことになる。

 学校側はいじめた生徒の指導はしたが、学校全体に「いじめは悪だ」と徹底させられなかった。被害者の苦しみに思いを寄せ、徹底的にいじめから守るという姿勢に欠けていたのではないか。

 「もう我慢の限界。裁判でもしないといじめはやまないのでは」。母親は今、市教委と加害者の保護者を相手にした提訴を検討している。

(東京新聞)

 

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