Ask John
ファンサブは今後も続くのでしょうか
Will Fansubbing Continue?
2005年9月30日


質問:

ファンサブについては気持ちが複雑です。ANIME人気の拡大はファンサブの力によるものであるとして回答者さまはその存在を否定しない旨を以前述べられていました。でも日本の友人たちに言わせるとファンサブは不法であって、海外のANIMEファンたちの海賊行為には腹を立てているそうです。いくら日本の文化が好きだからといってあんまりではないかと。

業界誌ICv2によるとライセンス料の上昇とともにマイナー作品では元が取れなくなるものがでてきているそうです。ファンたちがファンサブで済ましてDVDを買ってくれないからだと。日本のメディアファクトリー社は自社作品のファンサブ化を禁じると公にしました。ただ、ファンサブを合法的に配信したいという会社も最近ではあるようです。

それで伺いたいのですが、ファンサブの善悪は別としてその将来についてどうお考えでしょうか。つまり、いずれ消えていくのか生き残っていくのか。
回答:

ファンサブの今後については現在に至るまで米国のファンたちのあいだでは倫理的な是非についてとともに何度も(しかしそれほど真剣にではなく)論議されてきました。ファン翻訳が倫理的に許されるのかどうかはともかく、ANIMEがここまでわが国に普及した立役者のひとつとするのがファンのあいだでは概ね常識とされているようです。ファンサブなしではANIMEは今ほどの市場も認知度もなかったはずです。


しかしながらファンサブの目的がANIMEの知名度増進と正規のANIME産業の拡大にあるとすると、その目的はすでに果たされ役目を終えたはずです。ファンサブはそれでも消えずインターネット上でたくさん観られているということは、今なおファンたちにとって役に立っているのか、大勢の英語圏のANIMEファンたちが個人使用のためにこうした海賊行為を肯定しているのだと言えます。


ANIMEというものが存在し続けるのといっしょにファンサブもまた米国のみならず決して消えることはないと私は思います。なぜって、日本とそうでない国々とでは文化的にも商業的にも異なるところがでてくるからです。ファンサブが途絶えないでいることについては欲張りさと自己中心性がいくらか関与していることは確実なのですが、わが国のANIME界にとって益をもたらしていることからおそらく今後も作られ視聴されていくであろうと思います。


ファンサブの是非について考える前に、この用語の使い方についてはっきりさせておきたいと思います。無許可による非営利目的かつ正規の翻訳版が制作も発売もされていないANIME作品を自主翻訳したもののことを今回の回答のなかではファンサブと呼びます。『名探偵コナン』『ワンピース』のように既に北米市場での権利が獲得されているものであってもTV放映もDVD発売もされていない回を自主翻訳したものもここではあえてファンサブに分類します。『ワンピース』の第240話が自主翻訳されたとしてもそれが同作の第4話の正規翻訳版の売り上げに差し障ることはないと私は考えています。それどころかファンサブのおかげで正規版発売の際にずっと関心が高まるという効果もみうけられます。


私は一介のANIMEファンであると同時に小売業者の社員でもあるというやや特殊な立場にいる人間ですので、ファンサブ界での人気と正規版DVDの売り上げとを具体的に比較できるわけです。これはもう断言できますがファンサブは正規のものの売り上げに大きく貢献しています。この一年間で『NARUTO』や『鋼の錬金術師』らがお目見えしていますが、まさにファンサブのおかげで正式お目見えにあたって高い関心と期待が寄せられたゆえだと考えています。


業界紙のICv2らに言わせると二軍級のANIME作品の売り上げが減りつつあることを挙げて、これはファンサブが本来の消費者を奪っているからだと結論づけているようですが、私は賛同しません。ファンサブ化があまりされていない作品、たとえば『ワンダバスタイル』『地球防衛家族』『マイアミ☆ガンズ』『人造人間キカイダー』『セラフィムコール』『魔装機神サイバスター』『タイムボカン』『光と水のダフネ』らは不振どころかさっぱりな結果に終わったものまであります。概ね配給業界においてはファンサブされることの多いものほど実際にもよく売れるし、ファンサブ化されることの少ないものはDVDも売れないものとされています。


いろいろなデータからもわが国でANIMEの足をひっぱっているのはファンサブではないことがうかがえます。ファンサブによって特定の作品への関心が高まり、それはそのまま需要を生み出します。ファンサブによって正規品の売り上げにマイナス影響がでていることは否定できないとは思いますが、ANIME市場の縮小傾向はむしろ商品の過剰供給によるところが大きいと考えます。


わが国における総売上の減少は発売作品点数が多すぎて消費者がそのすべてをチェックできなくなっていることが背景にあります。市場の飽和化とともに消費者も以前より作品を選ぶようになりました。ファンたちはなじみがあったり大雑把なことは心得ているような作品に絞って購入するようになる反面、あまり知られていないものについては手を出さなくなっています。出来の良し悪しは問われません。この点に関してファンサブは商品の宣伝において非常に貢献し続けているわけです。


日本の消費者は何十とある最新作をTVで試見する機会が与えられていて、しかもお金は使わなくて済むわけです。おおざっぱに見積もっても50を凌ぐ新作が毎週日本では放映されています。ちなみに米国では地上波と主要ケーブル局で流されるANIME番組はそのうちのほんの一握りです。


ANIME情報誌Anime News Networkが行ったアンケート調査(3,000人強)によると、予告編だけでなくもっと長い無料お試し版があってしかるべきであるとする声が優勢であったそうです。この反応がそのまま英語圏のANIMEファンすべての声とはいえないにせよ、ANNに寄せられたこの無署名投票によるとANIMEはどれも無料でみられるべきだとする声は圧倒的に少なかったことはここで強調しておきたいと思います。


日本に暮らしているわけではない海外のANIMEファンたちにとってファンサブは作品を試見するための唯一の手段なのです(日本からDVDを直輸入するという手もありますが英語字幕が付いているものはあまりないうえに、日本と北米とではリージョン・コードも異なるのでそのままでは再生ができない)。


日本国外のANIMEファンはとりわけ最新作や最新回に日本のファンと同じようにすばやく触れたいと願っています。しかしながら日本のANIME業界は商業的それにおそらくはもっと奥の深い理由ゆえにTV放送やインターネット経由で海外のファンたちが自由に試視聴することにはあまり積極的ではありません。


そのうえ悲しいことにわが国のANIME市場はあまり大きいものではないためTVで今以上にANIME番組が流されることは今後も期待できません。となるとANIMEファンは観てみたいと思う作品に触れるために合法的とは呼べないような手段にすがるしかないわけです。ここ米国でもANIMEがもっと出回って視聴しやすくなって日本と同じようになればまた別なのですが、その日が来るまでファンサブは両国でのギャップを埋める手段として今後も消えずに続いていくだろうと思います。


でもファンサブが今よりメジャー化していくということもまたないのではと思います。そのうえファンサブが合法的なものになって商業ベースで流通するようになるかどうかも疑問です。日本のANIME業界がそういう方式を取り入れるようになるとは非常に考えにくく、現在のところANIMEのネット配信は日本ではあまり行われていないうえに、どの企業も全話まるごとネットにあげることには消極的な様子です。


ANIMEのデジタル配信を行うと国・地域ごとに作品配給を行うことが難しくなって利益に響く恐れがでてきます。どんな対抗策を施してもなにか作品をネットにあげれば日本国外にそのまま流出してしまう危険性がうんと増えます。


日本のANIME業界は世界地域別に作品を供給することで利益をたくさんあげています。権利を米国、ドイツ、フランスの業者に渡せば、日本側には権利料や売り上げがみっつの地域よりそれぞれ入ってきます。ダウンロード配信だとそうはいかなくなるわけで、これでは日本側も消極的にならざるをえません。


そのうえ既に有料ダウンロードによって安価に供給されているANIME作品について米国側業者があらためて権利を買ってDVDを売り出すようなことをするのかどうかは疑わしいと思います。DVDが出るとしても、既にネットで公に手に入るような作品の権利を改めて買い入れるのに米国側業者は高いお金は払いたがらないはずです。そして日本側は概ね権利料は高めのものを請求してくるものです。


もうひとつ問題があります。日本のANIME業界はファンサブの合法的商業化には賛成しないだろうということです。そんなことをすれば品質管理がどうしても甘くなります。今日の業界では日本側は自社作品を米国で配給するにあたって事実上あらゆることに口をだしてきます。英語版では各登場人物はどういう綴りになるのかまで指示してくるほどで、そこにいきなり素人翻訳家にすべてをゆだねるとは非常に考えにくいことです。


慎重に作られたプロ翻訳をダウンロード配信するという方法も考えられますが、それはもう行われています。Sputnik7.comやTotalVid.com などでは高品質な翻訳を用意してダウンロード配信を合法的に行っていますが、権利元の承認したものはもはやファンサブとは呼べません。これは正規の翻訳といいます。


ファンによる翻訳がそのまま正規版として有料配信されるようなことはまずないと私は考えます。これが革新的な配給方法とは思えないのです。米国・日本のANIME業界はすでに翻訳を自前で手がけビデオソフトとして発売することをごく当たり前のこととして行っており、そこにファン翻訳に頼るというのはむしろ退化でしかありません。


それにダウンロード配信方式では料金をかなり高めにしないとDVD発売やTV放映によって得られる権利料や売り上げに匹敵する儲けは難しいはずです。さらに言えば、日本の配給業者は海外市場からがっぽりと稼ぐことに慣れているので、最小限の費用でそこそこの利益を目指すネット配信方式に賛同することはないと私には思えます。


まとめます。倫理的な問題があるとはいえファンサブは今後もファンたちにとって有益なものとして機能するだけでなく、業界にとってもプラスに働くものであり続けるはずです。ファンサブは決して正規商品を脅(おびや)かすものではなく、しかしながらそういう目的で使うファンもまた一部には存在します。ファンサブは口コミと同じ性質のものです。厳密には海賊行為そのものではありますが、今後もファンの啓蒙・開拓に貢献してくれるのがファンサブです。ジャパニーズ・アニメーションへの認識を広め、正規の商品への需要も盛り立ててくれると思います。


現在のところファンサブは日本人でないANIMEファンによって行われる、ANIMEを日本国内なみに視聴できるようにするための手段として重宝されています。そんなわけでファンサブは、ファンが存在しながらもANIME普及度が低い国々と日本とで今よりずっと普及格差が小さくなるまでは消えないであろうと思います。

Archive


アクセス解析&SEM/SEO講座 for オンラインショップ開業/運営