Ask John
米国人はファンサブに罪の意識を抱かないのですか
Do Americans Expect Too Much Free Anime?
2005年10月6日

質問:

以下の問いはAskJohnの日本語版訳者を経由して私のもとに届いたものです。

ファンサブは今後も続くのでしょうか」を日本語訳で読みました。自分は石川県に暮らしていますが、最新の番組のうちここで実際に放映されるのは5%にも達しないうえに深夜枠で放映されるものは一本もありません。どうしても観たいとなるとDVDを買うなりレンタルするなり、でなければ有料チャンネルに加入するしかありません。

米国のANIMEファンは興味のある番組をお金も払わないでお試し視聴するのが当然の権利だと思いこんでいるようですが、これは変ではないでしょうか。こんなにお手軽には最新作を観られないような地域に住んでいるひとが日本には大勢います(それにANIMEのDVDは日本のほうが倍の値段です)。ファンサブは今後も続いていくという回答者さまの予想は正しいとしても、その行為が正しいこととは言えないはずです。黙認と権利は違うのだから」
回答:

現在も論争が止まない事柄についてAskJohnを通して自説を述べることはなるべく避けるようにしていますが、この質問箱を翻訳で読んでくれている日本のANIMEファンのあいだで、米国のファンたちは日本のANIME産業にたいしてずいぶんと横柄な態度をとっているとお怒りの向きが少なくないと聞いております。そしてこれに答えるべきだという指摘を受けました。


始めに断っておかなくてはいけないようですが、私はあくまで一介のANIMEファンでしかなく、自分自身の見解をここで述べるのはそれが読者のみなさんがANIMEをめぐる自分自身のことを理解できるようになるための助力になると考えているからです。米国のANIMEファンとか日本のファンたちといった風に私がまとめて呼ぶ場合、それは厳密にはそれぞれの区分けされた集団のうち多数を占めるであろう人々のことを指しています。日本なら日本の、米国であれば米国のANIMEファンのすべてがこうなのだとレッテル張りをすることは私には不可能事であることをここでははっきりさせておきたいと思います。


私がファンサブ配信について肯定的であることや、米国のANIMEファンたちがずうずうしくも作品を違法なやり方で視聴しているという話について日本ではたくさんのANIMEファンの方々が不愉快に感じていると聞いております。こうした声に正面から反駁するつもりはないのですが、それでも一言述べるに、こうした批判は視点の違いによるものではないかと思います。


米国でのファンサブ活動を正当化することはできないと思いますし、そうしたこともありません。これと同じく米国のANIMEファンたちが作品の翻訳・配信を行う際に守られている不文津について弁護を行うこともできないと思いますし、実際に弁護したこともないはずです。


わが国のANIMEファンたちは、とうてい正当化できない行為を当然の権利といわんばかりに考えている部分があります。簡単に言えば、ANIMEは無料で好きなだけ視聴できて当たり前だと感じているわけです。それがUSAの流儀なのだと。


わが国は市民にたいして過剰な権利意識を抱かせてしまうところがあります。自らの行いが正しいのか間違っているのかを、それから日本のANIMEファンや作り手たちのことをろくに考えることなく実に多くのANIMEファンたちが自らの権利を堂々と訴えてきます。実際、ANIME視聴者の大半は、自分たちに分かるようにどの作品も英語で作られるべきだと思い込んでいます。こういう態度が日本のファンたちの目には傲慢なものに映っているとしても弁明の余地はないと思います。


日本では地域によってはANIMEが手に入りにくいということと関わりなく、ファンサブが違法であることに変わりはありません。知的財産権を重んじる人たちに言わせれば、ANIMEの違法配信は著作権の侵害そのものです。正規版を除いて米国人はANIMEについていかなる権利も行使できないのです。


しかしながらわが国のANIMEファン(というか自分なりの考えをもっているファン)は、目的は手段を正当化するというロジックとともにANIMEの不法視聴を必要なものと考えています。無料で試し視聴できることで正規品発売の際には売り上げもあがり、つまりは作り手たちやANIME産業全体にも益になる、故にファンサブは肯定されうるのだと。その一方で日本側のANIMEファンはANIMEの不法配信は違法であると厳しく考えています。違法行為はなくなるべきであると。


日本のANIMEファンたちはファンサブが世界各国で作られ流通していることを不快に感じているわけで、尊厳を損なわれていると考えるのももっともなことです。ファンサブや米国流の権利意識を私が弁護したところで、ANIMEを文字通り搾取する行為に反対する日本の堅固なANIMEファンたちには通じないことと思います。


わが国のANIMEファンたちの多くは新作を視聴するためであればどんな手段でも使って目的を達成させます。ANIMEを収集するにあたって取られる手段がそもそも違法であるとなると、これを道徳的観点から肯定はできません。しかしながら手段ではなくその結果についてとなると考えの分かれるところです。


ファンサブが法に反することについて私には異論はありません。著作者の権利を侵害する行為だと思います。無料視聴を当然の権利だと考えるわが国のANIMEファンたちは正当化できないという点にも同意します。でも、思うのですがファンサブは完全悪ではなくその存在についてはそれなりに必然もあるのではないでしょうか。


仮にファンサブやその他のアングラのANIME配信がなくても利益は日本に入ってくるとは思います。しかし、現在のものよりかなり下回ってしまうのではないかとも思うわけです。ファンたちがANIMEをネット上で共有しあうという行為を通してこそ、世界中でANIME人気がじわじわ広がっているではないかと私は考えています。


つまりファンサブのような配信方法もANIMEにとっては必要悪なのです。厳密に考えれば著作者の権利侵害であり悪であるとはいうものの、それでもこれなしでは今ほどの国際的成功も利潤も達成できなかったはずです。こう考えるとファンサブは普及宣伝手段としては必要なものだとも言えないでしょうか。


わが国のファンを無罪だと弁護するつもりはありません。でも、ANIMEの不法配信について米国側のみに罪があると果たして断定していいのでしょうか。名前をいくつか挙げるにスペイン、ブラジル、アラブ諸国、オーストラリア、カナダ、イギリス、フランス、ドイツでもファンサブが出回っています。


日本側にも多少の責任はあるはずです。というのは放送内容を録画してWinny等を通して配信しているのは日本の一部のANIMEファンの手によるものだからです。日本ではTV放映の際にネット配信を禁じる旨が画面文字で流されますが、日本語で記されてはいても英語ではありません。つまり日本の放送局は国内での違法配信については禁じていても、海外のファンサブ者については何も語っていないというわけです(ファンサブ関係者は日本語テロップも読めるからではないかと思われ − 訳者)。


もし日本のファンたちが録画をネットにのせなければ米国でもほとんどのファンサブも消えるはずです(まじっすか − 訳者)。日本側こそが不法配信の原因だと決め付けているのではありません。ファンサブ行為に実際に関与している人間はともかく、不法配信を誰かのせいにすることはできないと私は思います。それにあえて言いますが、違法配信については米国のファンのみに責があるというのは酷ではないでしょうか。これは既に一国のみでの問題ではなくなっているのです。


米国のANIMEファンたちは欲張りで横柄だという声が日本ではあるようです。米国人たちはお金も払わないで好きなだけ最新ANIMEを違法に視聴できる仕組みなのに当の日本人がそれができないというのはおかしいと腹を立てる向きもあるのですが、日本のファンたちは山のようにANIMEに触れられるからうらやましいと実に多くの米国人ANIMEファンが感じていることも本当なのです。


ポルノANIMEの存在に腹を立てたり、本来不法であるはずの同人誌活動が日本では公にまかり通っていることに強い訝りを感じている人もまたたくさんわが国にはいます。配給や品揃えに関しては今後も日本国内外で差が残り、不正行為や不平等も続くと思います。


わが国のANIMEファンたちの考え方や習慣すべてを肯定するつもりは私にはありません。そうしたところで日本のANIMEファンたちの不信感を払拭することはできないはずです。米国側は甘えすぎだと考える日本のファンたちの声はおそらく正しいのです。実際、多くの米国人がANIMEについては権利意識を振りかざすうえに、そういう考え方に則って振舞っています。すなわちアングラのANIME視聴方式の発生であり、そして同時に売り上げを増やし日本に入る利益も増えるというわけです。


補足
以下に引用するのはAskJohn日本語版の訳者からの補足メールです。

ファンサブの将来についてのあなたの回答を読みました。示唆に富むし、結論には私も同感です。でも、日本のAskJohn読者のなかにはがっかりするひともきっとでてきます。米国のANIMEファンたちの違法行為を正当化しようとしているとしか人によっては取られないはずです。そういう人たちは回答が理屈としてもっともらしいものであればあるほどへそを曲げると思います。「ジョンはしょせんガイジンさ」と。

私の考えを述べるに、この問題の解はおたく文化そのものにあるのではないでしょうか。例えば東京では毎年2回のコミケ(コミック・マーケット)が催されます。実にたくさんのアマチュアMANGA家たちが人気MANGA、ANIME、ゲームを基にした不法なMANGA誌(ドウジンシ)をつくっています。法的には海賊行為のはずなのですけど、どの出版社もANIMEスタジオも口をだしません。起訴すらしません。どの企業も次の才能がコミケ空間より飛び出してくることを心得ているからです。企業の商業活動に差し障ることがないことも知っているのです。

ANIMEを始め、おたく文化というものには独自の欲望が潜んでいるように思います。あらゆる社会的責任より逃れたいという欲望が。YAOI好きの女の子が少年愛ものに走るのは女性らしさとされるものから逃れたいとひそかに願っているからですし、男の子たちがビショウジョANIMEに走るのも男の子らしさとか男らしさとされるものより逃れたいからです。社会的・法的な縛りごとよりいっとき逃れたいと思ってみなコミケに参加しているのです。

責任からの逃避に加え、パクリのパクリを許容することでおたく文化は発展してきました。例えば『奥様は魔法少女』を盗作だとする声はありません。単に魔女っ子ガールフレンドもののひとつでしかないとされます。藤島康介氏が赤松健の『AIが止まらない』に激怒した際、講談社は藤島氏をなだめるのに懸命ではありましたが、あれは『ああっ女神さまっ!』の盗作だという氏の主張ははねられました。これが実話なのかどうかは分かりません。でも、もし藤島先生の主張を受け入れたらMANGA業界の活気そのものに水を差しかねないと社は考えたのだと思います。

ディズニーが手塚の『ジャングル大帝』を盗作したのではないかというニュースが流れたとき、日本のMANGA業界は戸惑いました。ディズニーの不法行為についての怒りもあったのですが、本当はANIME業界も含めて自分たちの弱いところをつつかれたように感じたからです。大ディズニー帝国を責めるとコミケを含め日本国内のあらゆるパクリ行為をも不健康なものとして叩かざるをえなくなります(ただ手塚が『バンビ』を盗作したというのは当たりません。影響や刺激を受けることをパクリとはそもそも呼ばないのだから)。

日本のファンのひとたちにはきっと不愉快に思われるのでしょうけど、日本のANIME業界、作り手それに私たち日本の消費者三者の間にはびこるなれあい体質から生まれた副産物がファンサブなのだと思います。しわ寄せが誰かのところにくるのは避けられません。今回質問してきたひとがその誰かのうちのひとりなのです。気の毒だけど、おたく文化が半自覚的なあなあ体質より決別しきるまではどうにもならないと思います(さしあたってそういう日はやってこないのでしょうが)。


さらに訳注 うえのメールには入れなかったがほかにも日本側で考えておくことがあるように思う。日本製アニメーションやまんがが世界的人気を博しているという誇大妄想+浮世絵いらい日本は世界にたいして独創的文化を発信できないでいるという積年の劣等感。これらがファンサブ叩きに多少なりとも関与してはいないだろうか。

また、ファンサブという非合法のファン活動に頼らなければANIMEは海外市場を維持できないという現状(ジョンの握る売り上げデータは正確である)がいったいどういうことを暗示しているのかも検討してみる必要がある。日本国内での期待とは裏腹に、ANIMEはハリウッド映画のような国際的大衆性を結局は持ち得ない(ジブリは基本的にアート系扱い、ポケモンはしょせんおもちゃ人気、ほかのTV放映も権利料が安いから)文字通りのおたく文化でしかないのではないかと。

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