(写真はイメージ) アメリカでは、静脈注射のほかに絞首刑や銃殺刑、ガス室、電気椅子などの処刑方法が使われている。しかし、大半が静脈注射だ。NGO(非政府組織)「死刑情報センター」(本部・首都ワシントン)によると、1976年に米連邦最高裁によって死刑が再開されて以来1056人が処刑されているが、内訳は注射が887人とずば抜けて多く、次いで電気椅子153人、ガス室11人、絞首刑3人、銃殺刑2人となっている。 米メディアによると、フロリダ州では12月13日に死刑執行が行なわれた際、死刑執行官が注射針を静脈に打たず、筋肉に打つというミスを犯し、従来の死刑囚が死亡するまでの3倍近い時間がかかった。このため、検視官の報告を受けたジェブ・ブッシュ州知事は15日に直ちに今後の死刑執行を凍結した。 死刑の執行を受けたのは殺人犯のエンジェル・ディアス(55)だ。執行官は、ディアスが顔をゆがめ、呼吸に苦しむ様子を示す中で、新たな注射を行い、死刑を執行した。この結果、処刑まで通常の3倍の34分間もかかる不手際を起こした。 薬物が筋肉中に打たれたため、死後の解剖結果からディアスの両腕にやけどのような跡が見つかったという。しかし、今のところディアスがどの程度苦痛を感じたかは明らかにされていない。 静脈注射は、まず死刑囚が意識を失う薬物が投与され、次いで体を麻痺(まひ)させる薬物が投与される。そして最後の薬によって心臓の発作を起こし、死亡することになっている。フロリダ州のケースでは、死刑囚が意識を失わないまま薬物投与が継続された可能性もあり、ブッシュ知事も調査委員会を設置、07年3月1日までに結果を報告するよう指示した。同州には375人の死刑囚がいるが、処刑は中断された。 ブッシュ知事は、ブッシュ米大統領の実弟だ。知事の任期8年を務め、2週間後には退任する予定になっており、この問題は後任知事が引き継ぐことになる。 死刑反対団体はフロリダのケースについて、明らかに「残酷かつ異常な刑罰」を禁止した憲法に違反していると指摘している。 一方、フロリダ州のケースが明らかになった15日にカリフォルニア州でもサンホセの連邦判事が、同州が行なっている薬物による静脈注射のやり方では死刑囚に苦痛を与える恐れがあるとして、こうした現行の措置は修正憲法8条に違反し、「違憲」と判断した。同時に同州当局者に対して30日以内に改善方法を報告するよう命じた。 このケースは、1981年に女子高校生をレイプ、殺害した死刑囚マイケル・モラレス(46)の弁護人が、薬物注射は苦痛を与える恐れがあるとして訴えていた事件だ。この提訴により、当初2006年2月に予定されていた死刑執行は凍結されている。 判決はカリフォルニア州の注射による処刑の方法がずさんであると認定したもので、薬物注射自体を違憲とは判断していない。判事は、具体的に、死刑執行を行うサンフランシスコ湾に近いサンクエンティン刑務所のある執行官を取り上げ、彼はPTSD(心的外傷後ストレス障害)と認定されたににもかかわらず、処刑チームを率いている事実を指摘した。また処刑チームの薬物に関する知識の欠如を挙げるとともに、薬物の使用も適切に記録されていないと指摘した。こうしたずさんさは、死刑囚に苦痛を与えかねないものになる。 しかし、判事は判決で、「カリフォルニア州の注射による処刑のやり方は破綻(はたん)しているが、修復は可能である」と含みを持たせる指摘をしている。つまり静脈注射の執行は、その運営・管理の方法が改善されれば認められるとの考えを示唆したものだ。今後カリフォルニア州が他の処刑方法に切り替える可能性もあるが、現段階でははっきりしていない。ともかく同州にいる650人の死刑囚の執行は当面凍結されることになる。 【関連記事】 「死刑」は続けるべきか、やめるべきか
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