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第53回読書感想文コンクール:県特別賞作品紹介/3 岡山市長賞 /岡山

 ◇「日本にも戦争があった 七三一部隊元少年隊員の告白」を読んで--倉敷市立乙島小学校5年・金子太一君

 何度も読むのをやめようと思った。だけど知りたい。そんな気持ちをくり返しながら、ぼくはこの本を読んだ。

 “悪まの部隊”なぜ悪まなのかと言うと、戦争の頃、そこで日本の陸軍によって、細菌や毒ガスの兵器を作ったり、実験のために中国人やロシア人、朝鮮人の人達を三千人以上も、生きながら解ぼうしたり、殺したりしていたからだ。この本は、そんな“七三一部隊”に、わずか十五才で志願した篠塚さんの告白の本だ。

 ぼくは、日本にも戦争があった事は知っていた。広島や長崎に落とされた原ばくの事も、沖縄の不幸な出来事も、何度も読んだり聞いたりしてきた。だけどこの本には、ぼくにとってとても想像もできないような事が書かれていた。ショックだった。どこを読んでも体がふるえた。

 ぼくのお母さんは、大人になって初めてこの事を知ったそうだ。やはり、ぼくと同じようにすごくおどろいたらしい。

 ぼくは、豚が死ぬのを見ても涙を流していたような少年達が、なぜこんな残こくな事に参加できるのかどうしても理解できなかった。

 実験に使われる人々は“マルタ”と呼ばれ、篠塚さんが、実際に生体解ぼうにかかわる場面になった時、ぼくはページをめくるのもつらくなった。

 ぼくは一度本を置いて、弟をさそって外に出た。ドッチでもサッカーでも何でも良かった。とにかく本の中の世界からぬけ出したかったからだ。いつもの事をしているだけで、すごく幸せだと思った。だけどぼくはすぐに思い直した。この人達にとっては、これが決してにげ出す事のできない現実だったのだと…。どの立場の人も不幸だったと思う。

 ぼくの様子を見たお母さんが、

「無理して今、読まなくてもいいと思うよ。太一達の年の子が、そういう気持ちになったという事だけで、その本の意味はあるんじゃないんかな?」

と言った。だけど、ぼくはまた本を開いた。

「日本鬼子」とか「ドス黒い血」とか「切り刻み自由の人間モルモット」などというむずかしい言葉やおそろしい言葉がたくさんでてきたけれど、最後まで読んで、少しだけ心が軽くなった。

 篠塚さんが、苦しみながらも人間の心を取りもどし、八十才を過ぎた今も、証言者として生きている事を知ったから。そして、篠塚さんが“この本を読んでくれてありがとう”と、書いてくれていたから…。

 ぼくは、篠塚さんも戦争によって、一度は心を殺された被害者の一人なのだと思った。そして、篠塚さんはぼくに教えてくれた。真実を知る事、そしてそれをくり返さない事の大切さを。

 最後の“未来を生きる若いみなさんに平和のバトンをたくします”という篠塚さんのメッセージをぼくは心にきざんだ。

毎日新聞 2007年12月14日

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