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「ほっとけない」思い込め2006年11月07日 最近、白い腕輪を身につけている人を見たことがありませんか? 電車の中の若者や芸能人、スポーツ選手……。 白い布をまとったように東京タワーがライトアップされたのを覚えてますか? 「ほっとけない世界のまずしさ」というキャンペーンを知ってますか? シリコーン製の腕輪の正体は、ホワイトバンド。「私は世界の貧困問題を気にかけています!」という気持ちを表す。 9・11同時多発テロ事件で、先進国はテロ対策を優先させた。でも、本当に大切なのは世界から貧困をなくすことではないか。各国のNGO(非政府組織)が連絡をとりあい、05年をキャンペーンの年にした。74カ国に広がり、日本では59団体が参加する。 * 「日本でもやろうぜ!」。言い出しっぺはアフリカ日本協議会代表の林達雄(はやしたつお)(51)。医学生の時インドとタイを回り、なぜか気持ちが落ち着いた。日本国際ボランティアセンター(JVC)の派遣で、タイの難民キャンプで働いた。 そこに84年、エチオピアで干ばつと飢餓が起きた。林は、北部の州都から緑がない山道を5時間、標高3千メートルの高地へと向かう。 ある日ようやく雨が降り、喜びあって朝を迎えると、野宿をしていた100人が死んでいた。栄養失調の身に、寒さが命取りになった。仮設病院では年に500人以上が死んだ。多くは下痢。林は死に順番があることに気付く。「子どもや女性。お金がない、体力がない人からね」。生活改善の支援も内戦で中断。戻ると、リーダーの女性が売春をして食べていた。 医師一人の力の限界を感じたところへ、直腸がんを患った。アフリカを悩ますエイズ/HIV問題を訴える活動に軸足を移す。そして、国際NGOのオックスファム日本事務所の山田太雲(やまだたくも)(30)らと「ほっとけない」キャンペーンへ。シンポジウムや集会。なかなか広がらない。声をかけたのが、大手広告会社コピーライターのマエキタミヤコ(41)だった。 マエキタは2人の子の母親で、授業参観で知り合った父母に誘われ、自然観察会を手伝い始める。「日本にもNGOはあったんだ」。帰国子女で冷めた目で見ていた日本が、違って見えた。 電気を消して環境問題を考える「100万人のキャンドルナイト」も手がける。「一人一人が社会を変える力を持っていることを確かめる経験を持てたらいいな。じゃないと、民主主義でないところに落ち込んでいく気がして」 付き合いの広いマエキタが加わり、有名人の協力が始まった。歌舞伎の中村勘三郎(なかむらかんざぶろう)や女優藤原紀香(ふじわらのりか)、人気バンドGLAYのTERU。ホワイトバンドを腕に3秒に1度、指を鳴らす映像をつくった。このパチンの間に、世界のどこかで子どもがまた1人、死んでいる……。 「かっこいい」と身につける人が増え、今300万本が出回る。9月10日のホワイトバンドデー。ライトアップされた東京タワー前では、人気DJやアフリカのグループによるライブが開かれた。 * 本屋や雑貨店に並ぶホワイトバンドは1本300円。制作と流通の費用を除いた125円で、途上国のNGOによる政策提言を応援し、貧困の実情を伝える。どこかに学校が建つわけではない。当初の説明不足もあり、「募金だと思ったのに」と批判もある。 キャンペーンの事務局長、今田克司(いまたかつじ)(43)は「物を届けるだけでは貧困の原因はなくならない。市民が、政策を変えようと声をあげるきっかけになれば」。資金の使い道は収支報告で明確にしていく。ホワイトバンドを手にした人たちとどうつながるか、正念場だ。 「ほっとけない」の仲間たち。日本が主要国サミットの議長国になる08年に向け、力をつけたい。テロリストは貧しさと不公正から生まれる。世界の貧困問題に本気で向き合おう。ホワイトバンドは、そんな志でもある。 (このシリーズは北郷美由紀、写真は菊地洋行が担当します。本文は敬称略)
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