◎世界無形遺産 石川の漆文化に箔が付く
石川県が国への重点要望に挙げている「漆の技術」の世界無形遺産への登録活動をぜひ
実現させたい。首尾よく行けば、能楽、人形浄瑠璃文楽、歌舞伎に次ぐ国内四番目の候補になる。石川が誇る漆文化に国連機関のお墨付きができ、国際的な知名度アップにつながるだろう。来年秋の初登録に向けて、石川の声を国に届けよう。
世界無形遺産は、二〇〇三年のユネスコ総会で採択された「無形文化遺産保護条約」に
基づいて制定された。音楽や演劇、伝承、伝統技能など、世界遺産条約の適用外になっている無形の文化財について、国際的な規範を確立し、継続と発展を図る狙いである。第一回から第三回までの選考で、日本の能楽など三件を含む計九十件が選定された。
漆器は、英語で「ジャパン」と呼ばれているように、日本の歴史や自然、ものづくりの
技術などを象徴する伝統工芸品である。能楽や歌舞伎など、日本が世界に誇りうる第一級の無形文化財に比べても、何ら遜色(そんしょく)ない。
石川県では古くから輪島塗、金沢漆器、山中塗などの漆文化が栄えてきた。特に輪島塗
は漆器で唯一、重要文化財の指定を受けており、国内では抜群の知名度を誇る。世界無形遺産への登録は、能登半島地震で大きな痛手を受けた輪島塗にとって、何よりの応援歌となるだろう。石川県が登録運動の先頭に立ち、国内候補の選定を開始した文化審議会や文化庁への働き掛けを強めてほしい。
栃木県結城市では、三年前から結城紬(つむぎ)を世界無形遺産に登録させる運動を始
めているという。漆のライバルとなりそうな無形遺産はほかにもありそうだが、文化庁は、国内からの登録件数を増やす方針というから、次回登録は大きなチャンスになるはずだ。世界遺産のように登録基準がこの先厳しくなることも想定されるだけに、全体数が少ないうちに、ぜひ登録を済ませておきたい。
世界無形遺産への登録を目指す各国は、申請にあたって対象遺産の保護育成のための行
動計画を策定し、登録後はそれに基づく施策を進めることが求められている。登録認定を「名誉」だけに終わらせず、石川の漆器産業の振興につなげていく知恵も求められる。
◎イージス艦事件 漏えいは本当にないのか
イージス艦中枢情報の資料が海上自衛隊内に流出した事件で、流出源とみられる三等海
佐が日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法違反の疑いで逮捕された。これまでの神奈川県警と海上自衛隊警務隊の捜査では、「外部」すなわちスパイなどへの漏えいは確認されなかったというが、本当にそうなのか。引き続き追及しなければなるまい。
調べによると、流出したのは米国の最高軍事機密に属するイージス艦のレーダーシステ
ムに関する資料だといわれる。簡単にいえば、航空自衛隊の空中警戒管制機と連携して発射された弾道ミサイルを大気圏外でキャッチし、それを撃ち落とすシステムに関する情報だ。こういうものが広く流出していたというから驚くべき事件だ。
この事件で、今年五月に訪米した久間章生防衛相(当時)が米国の国防のトップに平謝
りに謝り、再発防止に全力を挙げると約束した。
流出源として逮捕された三佐は、プログラム業務隊(再編で廃止、現在は開発隊群)に
所属していた二〇〇二年、イージス艦で防空システムを扱う幹部隊員の教育用資料を持ち出し、海自第一術科学校の教官だった別の三佐に不正に渡した。
さらにこの別の三佐から同校の教官だった一等海尉に渡り、この一等海尉が学生らにコ
ピーさせるなど、第一術科学校を舞台に海曹士クラスの間に広がり、コピーが重ねられて最終的には護衛艦「しらね」の二曹に渡ったとされる。捜査の発端は今年一月、この二曹の中国籍の妻に対する入管難民法違反容疑での家宅捜索で資料をコピーしたハードディスクが発見されたことだった。
第一術科学校は主に艦艇に乗り込む者に砲術、水雷、掃海、航海、通信などの専門知識
や技能を習得させる幹部養成学校で、イージス艦についての教育も行われ、不正に持ち出された資料が学生ら三十人以上に内容をコピーさせたといわれる。
日米安保体制をゆるがせかねない秘匿度の高い情報をなぜ流出させ、コピーが重ねられ
たのか。外部への漏えいがないとは容易に信じられない。守屋武昌前防衛次官らの疑惑で影が薄くなったともいえる事件だが、おろそかにできない捜査だ。