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【特報 追う】自動速記“天敵”は東北弁 コスト減も誤訳続出…青森は見送り

2007.12.12 03:13

 コンピューターで人の音声を聞き取り、自動的に文字化する「音声認識システム」が普及し、従来の速記を廃止する地方議会が増えている。東京都議会、北海道議会に続き、来年2月には宮城県議会もシステムを導入。ただ、この機械化の波は東北全域に及びそうもない。ハードルとなるのは東北弁。青森県議会は「議員のなまりが強く、機械で読み取れない」と導入を見送り、他の4県も未検討。なまりのおかげで、東北の速記者は当面安泰?(渡部一実)

 音声認識システムの開発会社「アドバンストメディア」(東京都豊島区)によると、同システムは平成16年に静岡県沼津市議会で採用されたのを皮切りに、現在は全国21の地方議会が使用している。

 都道府県議会で初めて導入したのは北海道議会。17年6月から本会議、予算特別委員会、決算特別委員会でシステムを採用し、両特別委では速記を廃止した。

 導入の理由は主に3つ。(1)財政難から会議録作成部門でもコスト削減を求められた(2)衆参両院の速記者養成所が廃止されるなど、将来的に速記者を確保しづらくなる(3)速記職員の退職、高齢化が進んでいる−ことだ。

 道議会議事課速記室の山崎恵喜(けいき)主幹(速記歴30年)は「職人の誇りから機械化に抵抗感はあったが、速記業務を取り巻く状況は厳しい。5年後、10年後を見据えて(導入を)決断した」と話す。

 システム導入後、速記者の人件費や外注経費、印刷費などが浮き、機械のリース料を差し引いても、年間約1400万円のコストが削減された。

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 音声認識システムの「認識率」。ある発言を音で聞き、どれくらい正確な日本語に変換できるかを示す数字だ。

 北海道議会の場合、発言者が原稿を読む本会議では認識率90%前後、日常会話に近い話し方になる委員会では70%前後。つまり、発言内容の7〜9割は自動的に文章化されてパソコン画面に打ち出されるから、人間は残り3〜1割の誤認識、未認識部分だけを修正すればよい。従来のように、「速記法でノートに記録→速記文字を日本語に直す→直したものをパソコンに打ち込む」という作業をしなくて済む。

 システムの“天敵”はなまり、方言。地方独特の言葉や変わった節回しでしゃべると、音声を正しい日本語に変換できない。

 青森県議会で昨夏、議会の録音テープをコンピューターに聞かせたところ、「津軽弁や下北弁を読み取れず、むちゃくちゃな文章になった」(議事課)。製作会社は「使い続ければ変換機能が発達し誤訳が減る」と売り込んだが、同課の判断は「機械を育てる時間、コストが無駄」。結局、導入を見合わせた。

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 東北の中ではなまりが少ないとされる宮城県。6月議会本会議の冒頭でシステムを試したところ、議長、知事の発言計427語のうち誤認はわずか32語(認識率92・5%)。間違いは「酒気帯び」が「士気帯び」、「議場出席者」が「以上出席者」など、似た音の変換ミスが多かった。

 議会事務局職員による実験でも、「個室」が「固執」、「浅野(前)知事」が「朝の知事」などのミスがあったが、認識率は平均70〜80%と高く、来年2月議会での導入を決定。本会議と予算、決算の両特別委でシステムを使用し、速記を廃止する。

 ただし、いくら機械が発達しても、議論の内容を踏まえて同音異義語を判別したり、早口、吃音を完璧(かんぺき)に聞き取るのは無理。結局、最後の“詰め”は人間がすることになり、「全自動化」はまだまだ先の話になりそうだ。

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 ■音声認識システム 一般的に議長席、答弁席、質問席のマイクで集音。音声を控室や速記室にあるサーバーに送り、リアルタイムで認識、文字化する。それを「一太郎」「ワード」などの文書ソフトに落とし、会議録を作る。北海道議会の場合、1時間の審議を会議録にするのに計39時間かかっていたが、システム導入後、32時間に短縮された。速記文字の日本語化やパソコンに打ち込む時間が短縮され、その分、原稿の精読にあてているという。

 ■速記術 日本では田鎖鋼紀(たくさりこうき)が明治15年に発表した「日本傍聴筆記法」が起源。分速360字(秒速6字)で記録し、正確度はほぼ100%といわれる。大正7年には衆院、貴族院(現参院)にそれぞれ速記者養成所が設置され、卒業生が国会、地方議会に送り出された。国会では今後、議事録作成に録画テープや音声認識システムを活用するため、両養成所は昨年、閉鎖された。

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