ポスドク(博士研究員)の悲哀


私は2002年の4月から6ヶ月間,日本学術振興会の特別研究員(PD)の職にあった.いわゆる「ポスドク」である.このポスドクという,日本ではまだなじみの薄いポジションになってから,いろいろと不便なことや面倒なことを経験した.

そもそもポスドクとは,博士号を取得した若手研究者のポジションのひとつで,米国等では研究者のキャリアとしてはごく普通の職業名のひとつである(らしい).また,研究室における研究の重要な担い手である.

研究をして,結果を生産することで給料をもらっているわけで,ポスドクとは研究のプロなのである.

しかしながら,日本におけるポスドクの認知度はかなり低い.まだまだ普及し始めて間もない制度であるためにそれも仕方が無いことだが,当時の研究室の学生に,学費を払っている研究生であり,なけなしの(年間100万程度の)奨学金を貰っている存在である,と,ずーっとかん違いされていた時には,さすがにショックで研究が手につかなかった.

ところでポスドクであるが,雇用形態によって次のようなものに分けられると思う.

財源は科研費や21世紀COEなど(いずれも学振),また科学技術振興機構(JST)などのグラントであろう.この場合,雇い主である教官等の研究プロジェクトの担い手としての研究が求められる 最近は「地域知的クラスター」という地方重視型の研究プロジェクトのボスドクもある(給料は低い).
大きく分けて出資元が学振である場合とJSTである場合の二通りある. 大まかに言って,JST系のポジションの方が待遇がよい.
もっとも人口の多いポスドクであろう.好きに研究して良い上に,給料とは別に科研費までもらえる. その代わり,後に述べるような待遇の悪さに甘んじなくてはならない.
産総研,理研,通信総研,宇宙機構(旧NASDA)などで募集している. 理研が一番待遇がいいと思っていたが,NASDAの方が給料が上だった. これは,各政府関係機関の常勤職員になれるのでおいしい. 広い意味では,理研の任期制研究員もボスドクのうちに入るかもしれない.


しかしながら,ポスドクは大変悲哀に満ちた存在である.まず,日本学術振興会特別研究員の場合,次のような社会的不利益がある.
通勤手当,社会保険,住宅手当などは,研究機関系のボスドクではたいがいついてくるようだ. ひどいぞ学振. あと,ポスドクに共通の悩みとしては,「確実にクビになる」というものがあるだろう.

さらに,私のいた東工大においては,大変不便なことがあった.
私は学振の身分証明証があるからまだ良い.教官の研究費で雇われているポスドクはどうするのだろう.図書館は使えるのだろうか.おせっかいながら心配してみる.(未確認情報では,科研費の場合は大学の非常勤職員になれるらしい.つまり,学振が「底辺」なのか?)

こう考えると,「ポスドク1万人計画」などで,国としてはポスドクを増やそうとしているようだが,本当にやる気があるのか? と,疑わしくなってくる.公共事業で箱物だけ作って,その後の利用を考えないように,金を与えるだけで,研究の事なんてどうでもいいと考えているんじゃないか,と疑いたくなる.

せめて大学から在籍している「形」(証明証等)が欲しかった.外国の大学のホームページなどを見ると,ポスドクは常勤の教授らと共に faculty member (教育研究スタッフ)にリストアップされている場合もある.今のままでは,まるで旗本退屈男である.(わけわからん)

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