内野聖陽さん、市川亀治郎さん、ガクトさん、そしてスタッフが綴る「風林火山」日記 大河三昧
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11月28日 上杉政虎(謙信)役 Gackt(ガクト)

終焉(しゅうえん)はすべての始まり・・・

 放送は、いよいよクライマックスとなる川中島決戦が始まる。最終回まで続く両軍の激突をぜひ楽しみに見てほしい。
 最終回といえば、僕自身、上杉政虎の撮了を思い出す。正直、撮影が終わるからといって特に高ぶった気分になったということもなく、ただ『早かったな』というぐらいの感覚だった。

 でも、その前日の撮影でのこと。緒形拳さんと撮影が一緒だったんだけれど、『撮影が終わるということは、もう緒形さんとも会えなくなるんだ』と思ったら妙に寂しくなって、緒形さんに『明日で終わりですね』って話しかけたら、『この出会いはすべての始まりだから』って笑顔で言われたんだ。その言葉がすごく胸に響いた。終わりなんかじゃない、ここから始まるんだという気持ちが込められていて、さっきまでの寂しい気持ちが一瞬で清々(すがすが)しい気持ちに変わった。
 振り返ってみると、宇佐美定満と長尾景虎が初めて会うシーンの撮影は、すごく緊張した。リハーサルで緒形さんに最初に言われたのが、『このシーンは越後統一を目指す景虎が宇佐美を軍師として迎えるために説得に来る大事なシーンだから、もっと研究してこい』という言葉だった。そうして迎えた本番でそのシーンを撮影した直後に緒形さんを見たら、親指を立てて『OK!』というような素敵な笑顔をされた。その瞬間、胸が熱くなり、師を持つというのはこういうことなのかなって思ったんだ。
 僕は今まで師を持ったことがないし、持とうと思ったこともないけれど、この人に認められたい、喜んでもらいたい、この人の笑顔を見るために頑張りたいと思ってやれることがうれしかった。緒形マジックに魅了されたというか、男惚(ぼ)れしたというか、人生においてこんな出会いはなかなかないことだよね。
 その後も、緒形さんに『演技で気になるところがあったら、どんどん言ってください』って言ったら、『なんでだ。俺がお前の演技をずっと見ていること、知ってるだろ。大丈夫だ、パパがついてる』って力強く言ってくれて。緒形さんが本当の父親のような気がして、すごくうれしかった。
 「風林火山」では、優しくて、職人気質で、厳しい緒形さんと一緒にやれて本当に楽しかったし、学ぶことが多かった。僕の『大河三昧』は、今回が最後になるけれど、緒形さんからもらった言葉をそのまま、みんなに伝えたい。終焉は、すべての始まり・・・。また、いつか会おう!

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11月20日 武田信玄役 市川亀治郎

上諏訪で明かした由布姫との秘密

 「風林火山」の収録がクランクアップして1か月ほどたったころ、長野県上諏訪市で行われたトークショーに出席しました。僕と由布姫を演じた柴本幸さん、そして若泉チーフプロデューサーの3人で「風林火山」を語るというイベント。熱心なお客様たちが開場時間よりはるかに早くからお待ちいただいていたと聞いて、やはりうれしかったですね。

 実は10月は少し長めの休暇を取っていたんです。11月には巡業も控えていたので、すぐに歌舞伎の仕事をするのもどうかなと思って、親戚の結婚式出席を兼ねてしばらく海外に出かけていました。  休暇明けで久しぶりに女形を演じて、その2日後にトークショーイベント。女形をやるために眉をそったばかりだったから、上諏訪のお客様の目には少し異様に映ったかも知れませんね(笑)。
 収録が終わったとはいえ、放送はまだ続いているわけで、会場に来てくださったお客様にはこれまで演じたシーンの裏話と同時に、これから先の見どころなどもお話しました。しかし、一番皆さんが「へー」という顔をされたのは、僕と柴本さんが入れ替わったというエピソードだったような気がします。
 実は由布姫の最期のシーン、信玄の腕の中で息を引き取るというのは柴本さんのたつての願いだったんです。台本上ではふとんの上に横たわったままという設定でしたから。ただ、腕に抱えられた姿を美しく見せるのはやはり難しいんですね。首の位置、腕の置き方など、なかなか決まらない。そこで僕が見本を見せるために由布姫となって、柴本さんに抱えてもらったんです。言葉で説明するよりわかりやすいですからね。
 そんな思い出話をいくつかご披露して、あっという間の45分が過ぎました。少し色づき始めた木々、冠雪した南アルプスを車窓からながめながら上諏訪を後にしました。

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11月12日 山本勘助役 内野聖陽

夢を見る力の大切さ・・・

 勘助は“夢のかたまり”のような男でしたね。『侍になりたい』という夢のために、家族の反対を振り切り、家を飛び出した。そして、たくさんの挫折を味わってきた。でも最終的には出会うべく人に出会い、侍となって 人生を全うしたのだから、夢をかなえたと言っていいんじゃないかな。
 “夢”という言葉は大人になってくるとだんだんと使わなくなるけど、『ああしたい、こうしたい』という思いは大切だね。それが、もの作りにはすごく反映されることだから、欲求や欲望の力というのは表現する人間の肝とも言えると思いますね。それは“夢を見る力”と置き換えてもいいと思う。

 ただ、その“夢を見る力”って生きていると失いがちだよね。やっつけ仕事みたいな仕事ばかりしていると、未来を思う気持ちや、せっかくもらった人生をよくしていきたいという思いが、いつのまにか忘れ去られたり・・・。そういう思いすら消えてしまうほど疲れ果てちゃうときもある。だけど、それでも前を見て生きざるを得ない。そしたら、やっぱり自分の思う理想の状態にもっていきたいじゃない。だから夢を見る力って大事だと思うんだよ。
 もちろん、『夢なんか見ちゃいられないよ』って言う人や、神様のいたずらで救いようのない状態にいる人も世の中にはたくさんいらっしゃると思う。でも僕らの作ったフィクションの世界にふれて、少しでも前を向こうという力になってくれたらいいなって。決して不遜(ふそん)な思いからではなく、そんなふうに願うこともある。だからこそ説得力のある表現をしたい。それが僕の“夢”と言えるものかも知れませんね。

<おまけ>髪をそった・・・

 「信玄誕生」(10/28放送)では、出家したお屋形様にお供して勘助も出家し頭を丸めた。そこで、まだ暑いころ、私も実際に髪をそることにした。てい髪姿の勘助の収録はまだ先だったけれど、早々とすませることにしたのだ。場所はNHKの化粧室。スタッフに見守られながらのてい髪は、バリカン、電気シェーバーを使って約30分で完成。そりたての頭は青々として、まるでむき身のゆで玉子(笑)。これに磨きをかけて、真夏の太陽で焼いて、徐々に貫録を出していったのだ。その仕上げ時間も含めてのスケジュールだったというわけ。ちょうど収録を終わったばかりの風吹ジュンさんが、ひょっこりと顔をのぞかせて『あら〜、かわいい』って(笑)。少し、照れましたね。

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11月4日 番組広報 津曲信幸チーフディレクター

出演者やスタッフの熱意を伝えたい・・・

 「風林火山」の広報を担当することが決まったときは、正直『自分にできるのか』という不安と、『光栄だな』という両方の思いが交錯しました。番組広報として、これまでもいろいろな番組を担当してきましたが、ドラマは一度もやったことがなかったんです。それが、いきなりNHKの看板番組である大河ドラマですからね。ある意味、腹をくくったというか(笑)、この1年は「風林火山」に賭けるぞという意気込みで臨みました。

 最初から『これだけは』と決めていたことは、内野聖陽さんを筆頭に出演者やスタッフが情熱を持って全力で取りくんでいる姿を、なるべく多くの方に知ってもらうということでした。公の記者会見や取材会だけでなく、各媒体の記者の方たちとの日常的なつながりの中でそれをしていきたかったんです。僕が収録現場にいて感じたことを記者の方たちにお話しし、それをきっかけに興味をもって取材してもらえるようにということですね。朝ドラ(連続テレビ小説)や大河のような長丁場のものは、出来上がったものをPRするだけでなく、作っている現場を事あるごとに見せられるわけですから。
 各媒体に大河の記事が掲載される。そこに作品の素晴らしさや、出演者、スタッフのがんばりが見える。こちらの願いが通じたような記事を書いてもらえたときはうれしいですよね。それ以前に取材会などで記者の方たちが『へー』と目を輝かせて質問してこられたり、『来てよかった』と言っていただいたり、そんなやりとりも手応えを実感する瞬間です。
 いま振り返るとクランクインした山梨ロケのことが鮮烈な印象となって残っています。最初の収録シーンを前にディレクターの『山本勘助役の内野聖陽さんです。スタートしましょう』と言う掛け声が山の中に響きました。『よろしく!』と言って登場した勘助役の内野さんをみんなが拍手で迎え、そこでいきなり勘助が坂を転がり落ちるシーンを撮ったんです。よく晴れたさわやかな日で、あのときの葛笠村のセット、真っ青な空にくっきりと映える山並み、木々の緑などが鮮烈なイメージとなって僕の中に残っています。僕にとって「風林火山」の原風景とも言えるもので、今でも「風林火山」というとあの風景がよみがえり、初心に戻ってやる気が出てくるんです。
 収録は終わりましたが、まだ放送は続きます。僕は広報担当なので、視聴者の皆さんには放送を見るだけじゃなく、いろんな雑誌やホームページなどでドラマ制作の裏側、出演者、スタッフの熱意や工夫を知ってもらって、さらに「風林火山」の魅力を味わってほしいですね。

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