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社説:宙に浮いた年金 あの約束は何だったのか
驚きとともに、怒りがこみ上げてきた。基礎年金番号に統合されず該当者が不明となっている「宙に浮いた年金」の記録約5000万件のうち、4割近くの名寄せ(照合)作業が難航しているというのだ。
政府、与党はこれまで何度、「来年3月までに名寄せを終える」と繰り返してきたか。そもそもこの言葉は、7月の参院選での自民党の公約だったはずである。
それを、町村信孝官房長官のように「選挙だから『年度内にすべて(解明する)』と縮めて言ってしまった」と釈明するとは、あまりにもひどい。信じ難い責任回避であり、これでは政治不信が一気に高まっても何の不思議もない。
社会保険庁によると、名寄せが難航しているのは全体の38・8%に当たる約1975万件に上る。このうち約945万件には偽名などの記録も含まれ、持ち主を特定して統合するのは困難とみられる。
社保庁は「ねんきん特別便」の発送を前に、新たなプログラムによるコンピューター上の名寄せ作業の実績を基に推計したのだという。
何ということだろう。社保庁のずさんな事務作業によって宙に浮いた年金記録の多くが、永久に宙に浮いたままになる恐れが出てきたのだ。
この問題に対して、安倍晋三前首相が先の参院選で何と言ったか。「最後の1人、最後の1円まで年金を支払う」と繰り返し強調したことが、今でも耳に残る。
舛添要一厚生労働相の豹変(ひょうへん)ぶりにも驚かされる。8月の厚労相就任直後は「最後の1人、1円まで確実にやる」と勇ましく述べていたのが、どうなったか。先月下旬には「選挙の時のスローガン」に変わり、今回は「すべてを解決すると言った覚えはない」とまで変質する始末である。
これは紛れもない公約の撤回である。政治家の言葉は重いものだと思っていたが、これほど軽いとはどうしたことか。「作業はエンドレスで、できないこともある」と言うなら、最初からそう説明すればいい。
思えば年金記録不備問題が発覚して以降、政府は小手先の対応に終始し、泥沼にはまり込んだ。今年6月、当時の安倍晋三首相が関係閣僚とともに夏のボーナスを一部返上したのも、参院選向けのポーズにすぎなかった。
その結果、参院選で自民党が歴史的大敗を喫し、参院で野党が多数を占める「ねじれ国会」が生まれた。その後、安倍前首相が突然政権を投げ出し、福田康夫首相に政権が引き継がれるのも、もとはといえば国民の年金不信があったからにほかならない。
野党各党が一斉に舛添厚労相の責任を追及する姿勢を強めたのも当然である。福田首相の責任も免れないだろう。釈明するより、まずは国民に対して心から謝罪する姿勢こそ第一に必要ではないか。
今の政治家に最も欠けているものは、いざという時の潔さである。今回の年金記録不備問題でも、その潔さのなさを露呈してしまった。
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