特集「Webと広告の未来が変わる」

ネットのあした

「ネット広告万能」の死角

通説に一石、日本コカ・コーラの「実証実験」

 世代ごとの伸びを見ると、10代が最も多く135万人増加した。砂糖を使っていない新製品の「コカ・コーラ ゼロ」(2007年6月に発売)を飲む人が30〜40代で増えたのに対し、10代と20代ではオリジナルのコカ・コーラを飲む人が増加した。16〜24歳の愛飲者を増やすために広告予算の配分を見直したことが奏功したわけだ。

若者をターゲットにした広告戦略が的中した

広告予算の配分を巡る実験結果を受けて屋外広告や交通広告の予算を大幅に増やした

 さらに、コカ・コーラのブランドを冠した製品の2007年1月から9月までの売上高は、前年同期に比べて13%増加した。日本においては過去30年間で最高の伸び率である。

 こうした結果を受けて、日本コカ・コーラは茶系飲料の「爽健美茶」の予算配分の見直しにも着手した。コカ・コーラほどではないが、従来のテレビ中心のものから雑誌広告や屋外広告を重視した予算配分へと変えたという。

 「茶系飲料の顧客は主に30代から40代なので、コカ・コーラほど予算配分を劇的に変える必要は感じていない。このように商品に応じて広告媒体の最適な組み合わせが異なる点には注意すべきだろう」とベリール副社長は指摘する。

 「当社も以前から顧客と一緒になってキャンペーンの効果測定に取り組み、その結果に基づいて効果の向上を図っている」。今回のキャンペーンを担当している電通メディアマーケティング局の岡野雅一次長はこう断ったうえで次のように続ける。

 「ROMOは、複雑になりがちな効果測定に対する有効なアプローチの1つだと考えている。ROMOを使うのがふさわしい機会があれば、ほかの顧客とのビジネスにも活用していきたい」

継続的に見直すことが必要

 既に日本コカ・コーラは9月までの実績をマーケティング・エボリューションに検証してもらった。その結果を基に2008年の広告予算の配分を新たに考えるという。消費者の変化に応じて、広告媒体の最適な組み合わせも刻々と変わっていくからだ。

 「トヨタ自動車の生産方式のように、広告媒体の組み合わせも常に改良し続けなければならない」とマーケティング・エボリューションのブリッグスCEOは力説する。

 テレビCMが万能でなくなり、広告宣伝にもはや1つの絶対的な正解は存在しない。日本コカ・コーラの実験結果から考えると、オンライン広告だけでなく複数の広告媒体を組み合わせて最大の効果を発揮することを常に模索していくことが必要だろう。それもライバルに先行して取り組まなければ、競争上の優位につながらない。

 ROMOのようなツールを利用して広告媒体の最適な組み合わせを追求していく──。このような選択肢を日本企業も検討する余地がありそうだ。

レックス・ブリッグス マーケティング・エボリューション社長兼CEOに聞く
広告“やりっ放し”が浪費招く

費用対効果測定の重要性を説くレックス・ブリッグス社長兼CEO

費用対効果測定の重要性を説くレックス・ブリッグス社長兼CEO (写真:菅野 勝男)

 「ROMO」を開発したのは、米国企業のマーケティングの費用対効果を調べたことがきっかけだ。その結果、37%もの費用が効果を生まずに浪費されていた。この膨大な無駄遣いをなくしたいと考えた。

 浪費がなくならないのはなぜか。マーケティングの結果を企業が検証していないからだ。メーカーの「R&D(研究開発)」活動に倣い、マーケティングを「PR&D(PRと開発)」と称する専門家たちもいたが、実際は「D」の部分が実験による検証を交えたデベロップメントではなく、単なるデプロイ(展開)になっていた。つまり、やりっ放しに終わっていたわけだ。

 古い“直感的な”マーケティングを改めて、科学的なものにしなければならない。そう考えて開発したのがROMOだった。

 会社を立ち上げてから2年間は、費用対効果を測定した結果のデータだけを顧客の企業に渡していた。ところがそのうち、データを受け取った顧客の半数以上が実際のマーケティングを何も変えていないことに気づいた。

 広告媒体の組み合わせを見直したり、マーケティングの戦略を変更したりすることによって、何億ドル(何百億円)もの無駄遣いをなくせるというデータを示しても、彼らは変わらなかった。なぜなら、データから教訓を汲み取り、マーケティングのやり方や広告媒体ごとの予算配分を変えるプロセス(仕組み)を大半の企業が持っていなかったからだ。

 そこで結果のデータに応じて改善の目標を設定し、その実現に向けて誰がいつ何をすべきかを決めるプロセスまで顧客に提供するようにした。

 さらにデータの統合というサービスの重要性が増している。マーケティングに必要なデータが企業の異なる部門にあり、それらのデータを共有できていないからだ。

 自社製品に関する顧客満足度のデータはマーケティング部門、店舗の来客数や製品の販売実績は販売部門、消費者が自社製品と同じカテゴリーの製品に抱く購買意欲を分析したデータは社外の広告代理店という具合だ。散在しているデータを集約しなければ、費用対効果は測定しようがない。

 インターネットの普及に伴って「テレビや雑誌は死んだ」とよく言われるが、それは誤りだ。複数の媒体が相互に機能し合う「サラウンドシステム」を作らなければならない。 (談)

 日経ビジネス2007年12月10日号110ページより

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インターネット人口は世界で10億人を超え、生活に不可欠なものとなった。企業は仮想世界と共存し始め、現実世界とシームレスに融合しつつある。「ネットのあした」を考えずして「企業のあした」は語れない。日々進化を遂げるインターネットの世界を改めて照らし、そこで起きている現象とネットビジネスの新潮流を読み解く。

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