「ネット広告万能」の死角通説に一石、日本コカ・コーラの「実証実験」
前半と後半でそれぞれ16〜24歳を対象に市場調査を実施したところ、意外な結果が出た。それを整理したのが下のグラフだ。どの広告媒体に接触した後にコカ・コーラを飲む頻度が最も変わっているか。その結果をまとめたものである。 「最も注目しなければならないのは、週1回以上は飲む“愛飲者”がどの媒体でどれだけ増えているかだ」とベリール副社長は言う。 「週1回以上は飲むようになった」人に対して最大のきっかけとなった広告媒体がどれだったかを聞いたところ、交通機関での広告を挙げた人が20万人近くに達した。その一方で、ほかの媒体は愛飲者を生み出すきっかけにはほとんどなっていなかった。 飲む頻度を増やした人の人数を予算金額で割って算出した「費用対効果」を見るとさらに興味深い。 交通機関での広告によって「週1回以上は飲むようになった」人は、100万円の広告予算当たり約3500人だった。テレビCMを見て「1回は飲んでみた」と答えた人が、予算100万円当たり約3000人だったのと比べても多い。コカ・コーラの愛飲者を生み出すうえで、交通機関における広告の費用対効果の高さを物語る。 一方、従来型の予算配分を実施した後半の結果では、コカ・コーラを飲む頻度が変わった人はいずれの媒体でも皆無に近く、テレビCMで商品のイメージが向上しただけにとどまった。 つまり、愛飲者を生み出す最強の広告媒体はテレビでもインターネットや携帯電話でもなく、実は駅構内の壁に張られたポスターといった交通機関における広告だったのである。 日本コカ・コーラが行った広告の予算配分を巡るこの実験には実は指南役がいた。米国の市場調査会社、マーケティング・エボリューションである。 2002年に米カリフォルニア州サクラメントで設立された同社は、企業のマーケティングの効果測定とそれに基づくコンサルティングサービスを手がけている。顧客のリストには米国のマクドナルドやP&G、フォード・モーター、スイスのネスレなど、グローバル企業の名前がずらりと並ぶ。 「既に20カ国以上で実績がある。日本での顧客は日本コカ・コーラが第1号だ」。マーケティング・エボリューションの日本代表を務めるCMOワールドワイドの加茂純社長はこう話す。 マーケティング・エボリューションの力を借りて広告戦略を見直す欧米のグローバル企業。日本コカ・コーラの親会社の米コカ・コーラもその1社だった。設立からわずか5年しかたっていない新興企業がグローバル企業の注目を集める理由は、同社が展開する「ROMO」という独特のサービスにある。企業のマーケティングのROI(投下資本利益率)、すなわち費用対効果を測定するものだ。 「米国企業のマーケティングの費用対効果を測定した結果、膨大な費用が浪費されていることが分かった。そこで費用対効果を測定して、企業の無駄遣いを削減するサービスを始めた」。マーケティング・エボリューションを創業したレックス・ブリッグス社長兼CEO(最高経営責任者)は語る。 「ROMOが広告媒体ごとの予算配分の見直しに役立つことはほかの国で証明されていた。だから、日本での利用にためらいはなかった」(日本コカ・コーラのベリール副社長) 「過去30年で最高の業績」先の実験の結果を基に、日本コカ・コーラはマーケティング・エボリューションの助言を受けながら、広告予算の“最適化”を断行した。 「競争相手には知られたくないので予算の配分は詳しく教えられないが、キャンペーン前半で試した斬新な予算と後半の従来型予算との間のどこかに落ち着いたと考えてもらっていい。テレビCMが依然として最も多いが、交通機関での広告と屋外広告の合計が2番目に多くなっている」とベリール副社長は話す。 マーケティング・エボリューションのブリッグスCEOは「異なるスピーカーが出す音を反響させて音を豊かに演出する『サラウンドシステム』のように複数の媒体を調和した形で同時に機能させた方が、1つの広告媒体よりも強力な効果を発揮する。このように予算配分を最適化して調和を生み出すのが当社の役目だ」と強調する。 日本コカ・コーラは電通の協力を得て複数の広告媒体を使った。その結果「テレビCMオンリーの『単一スピーカー』からサラウンドシステムへと移行することができた」とブリッグスCEOは評価する。 その効果は、2007年1月から9月までのコカ・コーラの販売に如実に表れた。「毎週1回以上は飲む」愛飲者の人数が、前年同期に比べて426万人も増えたのだ。 |
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