今年も残り三週間を切り、年賀状を準備しなければならない時期になってきた。といっても家人がパソコンで作成したものに何か一言書き添えるくらいなのだが。
その一言も「本年もよろしく」とか「元気か。また飲みにいこう」といった文章とはいえない代物を二百枚、猛スピードで書く。しかし、今年はそうした書き飛ばしはやめようと考えている。
日本画家の平山郁夫氏の自伝「生かされて、生きる」を読んでそう思った。昭和三十五年、師の安田靫彦氏から賀状が届き「あなたの『仏教伝来』はたいへんに感動いたしました。たいへんに良いと思います」との一文が。
うれしさのあまり「妻の美知子に大きな声で何度も読んで聞かせたほどだった」と記す。前年、当時無名の二十九歳の平山氏はそれまでの画風を変え、後のシルクロードものの出発点となるあの白い馬にまたがった三蔵法師を院展に不安いっぱいで出品していたのだ。
よほど強い人間でないかぎり他人の評価や励ましは必要だ、と平山氏。たった一枚の賀状だが、人に褒めてもらうことが画家の世界、画家の型を固めるきっかけになる。氏は以降、学生にはそのよい点を褒め、欠点はよほどでない限り指摘しない。
来年の賀状は心のこもった安田・平山方式でいきたい。手間がかかり、大みそかまでに書けるか心配だが、乗り越えなくては。